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投資情報 | この”無名の”制度が世界を混乱させた理由


突然の混乱の始まり


米国時間8月30日 午前0時1分。

混乱が始まりました。

「そんな話、初めて聞いた」という顔をする人もいるほどに。

実際、多くの人は本当に知りませんでした。

「誰も事前に教えてくれなかった」と言う人もいましたが、実際にはすでに警告されていたのです。

しかしそれでも、この影響は世界中の買い物客や小売業者に波紋を広げました。

というのも、8月29日付で 「デミニミス免除」 が終了したからです。

そして、多くの人々が、これを「個人的な問題」として受け止めました。

かつてはほとんど知られていなかった小さな税制上の免除が、突如として大きな注目を浴びたのです。

この決定は、市場にパニックを引き起こしただけでなく、感情的・政治的な対立までも引き起こしました。

では、このデミニミスとは一体何なのか?

誰が最も大きな打撃を受けるのか?

そして最終的に、得をする「勝者」はいるのか?


デミニミス免除の歴史


まず知っておくべきなのは、これは「過去の関税法(Tariff Acts)」が関係しているということです。

1930年に制定された「関税法(Tariff Act of 1930)」では、

米国に輸入されるあらゆる商品──大きさや価格に関係なく──が関税の対象となっていました。

当然ながら、これは非常に面倒でした。

当時はまだコンピューターもない時代。

わずかな金額の税金を徴収するために膨大な事務作業が発生し、効率は最悪。

特に安価な小物商品に関しては、煩雑さに対して税収があまりにも少なかったため、

取り締まるコストに見合わなかったのです。

そこで1938年、米国議会は「デミニミス規定を導入しました。

ラテン語で「取るに足らないもの」という意味です。

つまり、「わずかなものには課税する必要がない」という考え方。

当時は5ドル以下のギフトと、その他1ドル未満の商品に対して、関税が免除されることになりました。

これは当時、画期的な決定でした。

「余計な書類が減る!」
「人件費も削減できる!」

ということで、大歓迎されたのです。

その後、インフレの影響を受けて、免除額は徐々に引き上げられていきました。

たとえば1994年、「通関近代化法(Customs Modernization Act)」により

免除額は200ドルまで引き上げられました。

そして2019年には、国際貿易を促進して経済活動を活発化させる目的で、

さらに800ドル(約11万円)の商品にまで引き上げられたのです。

なぜこれほど引き上げたのか?

それは、Eコマースが世界経済にとって欠かせない存在になったからです。

代表的なEC企業:

  • アマゾン・ドット・コム (Nasdaq: AMZN)
  • アリババ・グループ (NYSE: BABA)
  • イーベイ (Nasdaq: EBAY)
  • 楽天グループ (4755)
  • JDドット・コム (Nasdaq: JD)

といった巨大企業だけでなく、

世界のEC企業:

  • チューイ (NYSE: CHWY)
  • クーパン (NYSE: CPNG)
  • エッツィ (Nasdaq: ETSY)
  • メルカドリブレ (Nasdaq: MELI)
  • 美団 (OTC: 3690)
  • PDDホールディングス (Nasdaq: PDD)
  • シー (NYSE: SE) ADR
  • ショッピファイ (NYSE: SHOP)
  • ウェイフェア (NYSE: W)
  • ビップショップ・ホールディングス (NYSE: VIPS)

などのオンライン市場も急拡大。

さらに、ターゲット (NYSE: TGT) やウォルマート (NYSE: WMT) などの小売大手も、Eコマースを活用しなければ生き残れない時代となっていました。

その結果、デミニミス規定は世界的な経済活動の加速装置となり、予想以上の効果を生み出しました。

2015年には、デミニミスの適応枠で輸入される小口荷物は1億3,400万件に。

しかし2024年には13億6,000万件にまで急増。

つまり、米国の税関は毎日400万件以上の小口荷物を処理していることになります。

そして、この急増の主因は、ある1つの国にありました。


格安商品の大洪水


米国に入るデミニミス対象荷物の60%以上は中国発です。

特にSheinTemu(PDD傘下)の2社は、全デミニミス荷物の30%以上を占めており、中国から送られてくる小口の荷物の半分がこの2社から発送されています。

この2社が参入するまでは、デミニミス免除はほとんど話題になりませんでした。

しかし、この2社が急成長し、既存の小売大手のシェアを奪い始めたことで、状況は一変します。

最初は「不公平な優遇措置だ」という批判の声が競合企業の中からあがりました。

しかし、そんな競合企業も同じ戦略を採用し始めたのです。

たとえば、CoachやKate Spadeを傘下に持つタペストリー (NYSE: TPR) は、年間売上の14%をデミニミス規定による免税に依存していました。

しかし今回の変更で、これらの製品は30%の関税を課されることになります。

同様にルルレモン・アスレティカ (Nasdaq: LULU) も大打撃を受ける見込みで、1株あたり0.90〜1.10ドルの減益が予想されています。

さらに、eBay、Etsy、Shopifyなどのマーケットプレイスも大きな影響を受ける可能性が高いでしょう。

一方、全米に巨大な倉庫網を持つAmazonや米国の小売大手ウォルマートは、この混乱の中で逆にシェアを拡大すると見られています。

「Made in America」の価値は、これまで以上に高まることになるのです。

しかし、問題は単に「小売業者が優遇を受けていた」というだけではありません。

実は、昨年米国で押収された貨物の90%がデミニミス枠で輸入されたものでした。

さらに、

・薬物押収の98%
・知的財産権侵害品の97%

──これらもデミニミス輸入が絡んでいます。

こうした状況を受け、バイデン前大統領はデミニミス免除の廃止を提案していました。

もともと2027年7月に段階的に廃止する計画でしたが、トランプ前大統領がこれを前倒ししたのです。


【まとめ】小売業界の新たな秩序


今回の廃止は、国際小売業界にとって大きな転換点となるでしょう。

短期的には混乱と不確実性が続くでしょうが、最終的には市場は再編されます。

そして年末商戦が近づく頃には、新しい秩序が形成されている可能性が高いでしょう。

そして、小売の「次の」勝者は誰になるのか──

この変化は投資家にとっても重要なサインとなるはずです。

 

マシュー・カー

〜編集部〜

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Matthew Carr(マシュー・カー)

Oxford クラブ・ジャパンのチーフ・インベストメント・ストラテジスト。金融業界で20年のキャリアを持つ。 企業の中ではある一定のサイクルで株価が上下する銘柄があると言われており、マシューの専門はそのサイクルを見つけ出すこと。 彼の専門領域は石油・ガスといった伝統的な産業から、AI、5Gといった最先端テクノロジーなど多岐にわたる。 マシューの記事一覧 ≫

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