米国配当株投資

企業が“自社株買い”する理由

自社株買い:デート
配当:結婚
投資ではこのように例えられることがあります。
ちょっとした刺激を期待してデートをする人もいますが、多くの人は愛と長期的な関係を求めてデートをします。

自社株買い:デート


私は、自社株買いをティンダーに例えます。ティンダーとは、気軽な出会いを求めて使用されることが多いデートアプリです。
自社株買いは一般的に行われていますが、企業の現金の使い方としては最悪なことがよくあります。
自社株買いは、投資家にその企業の株に興味を持って投資してもらうための短期的なカタリスト(株価上昇の材料)であり、それはまるでデートの前にかっこ良く見せるために窮屈な服を着るようなものです。
自社株買いは、まさにその言葉の通りで、企業が市場で自社株を購入することです。この目的は市場に出回っている発行済株式総数を減らし、それにより1株当たり純利益(EPS)を増やすためです。
(編集部注:ここで言う自社株買いは、”企業の経営陣”が自腹で”自社の株式を購入するものではなく、”企業”が自社のEPSや株価上昇を狙って行うものを指します。)
もし企業が1,000万ドルの利益を得て、市場に出回っている発行済株式総数が1,000万株の場合、1株当たり純利益(EPS)は1ドルになります。企業が100万株を買い戻した場合、市場に出回っている株式数は900万株になり、1,000万ドルの利益を900万の株式で割ると、1株当たりの純利益(EPS)は1.11ドルになるということです。
つまり、実際の利益は横ばいなのに、1株当たり純利益(EPS)は11%も上昇したのです。これは、経営陣が見栄えを良くするために利益に窮屈なジーンズを履かせているようなものです。

配当:結婚


一方、配当は一般的に長期的に深く関わりを持っていくものです。経営陣が配当を支払えば、事業などが完璧でなくても、投資家は将来的にも配当が得られると期待するでしょう。経営陣は、減配した場合は株価に影響することを理解しています。
あなたのパートナーは便座を上げたままにしたり、歯磨き粉の絞り方を間違えるかもしれませんが、その人はあなたが苦しい時も元気な時もそばにいますよね。それは配当にも同じことが言えます。企業が困難な状況になって、四半期決算が芳しい結果でなくても、事業がうまく運営されていれば、投資家は株の値動きに関わらず配当を受け取ることができるでしょう。
また、自社株買い実施予定の発表は絶対的ではありません。これはまるで、デートの日を決めても当日ドタキャンされるようなものです。
企業が自社株買いを発表しても、実際には株を買い戻す義務はありません。それは経営陣の裁量によります。
そして、その裁量は、株価が高騰しているという最悪のタイミングの時になぜか自社株を買ってしまうという経営陣に委ねられているのです。
下のグラフを見て欲しいのですが、自社株買いは2007年のように市場が最高値をつけている時に最もよく行われる傾向が強いです。
四半期別SP500の自社株買い
2008年、2009年初期、2020年の初期に市場が暴落している時には、自社株買いはされていませんでした。
企業は、株価が過去最高値の更新を繰り返した2021年11月頃ではなく、まさに株価が割安の時に自社株を買い戻すべきだったのです。
しかし、それだけではありません。
経営陣は高値になって株を買い戻す傾向にあるため、2009年以来、自社株買いをした大半の企業の株価は市場平均を下回っているのです。
ミズーリ大学のムラリ・ジャガンナサン教授、クリフォード・P・スティーブンス教授、およびアリゾナ大学のマイケル・S・ワイスバッハ教授が、以前の期間を調査したところ、1980年代と1990年代のバブル絶頂期およびバブル崩壊の際、市場が上昇している際は自社株買いが増加し、市場が下落している際は減少している、つまり、経営陣は投資家が望むことと真逆のことをしていることが判明しました。
この三人の教授は「配当は〔永久的に〕営業活動によるキャッシュフローが多い企業が行い、自社株買いは〔一時的〕な営業活動以外によるキャッシュフローが多い企業が行う。」と結論づけています。
そして、リサーチャーであるアズィ・ベン=ファエル、ジェイコブ・オデッド、アヴィ・ヴォールによる研究では、大企業は「自由に使えるお金の分配にもっと興味を持っている」ため、経営陣は株価が市場の平均値よりも低い場合は自社株買いをしない、という結果に至り、私は『年100回配当』投資術という著書でその内容を引用しました。
言い換えると、こういった企業は、株主への価値提供となるような自社株買いを行う代わりに、現金を使って何かをしていることを市場にアピールしたいだけなのです。
1936年以降、配当は株式のトータルリターンの約40%を占めます。バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチは、今後10年間でこの数値が上がることを期待しています。
そして、ティンダーで本当の愛を見つける人はいますが、同じように、真剣に財務的責任を果たし、株価が下がったタイミングで自社株買いをする企業もあるのです。
しかし、ほとんどの自社株買いをする企業は、単に気を引くために 、投資家を「Mr & Ms Right(大切な人)」ではなく、「Mr & Ms Right Now(今だけお付き合いしている人)」として扱っています。
あなたが長期的にアウトパフォーマンスをする株を求めているのならば、配当を支払う企業に投資するといいでしょう。
良い投資を。
マーク

Marc Lichtenfeld(マーク・リクテンフェルド)

Oxford Club チーフ・インカム・ストラテジスト。ウォール・ストリートを含め25年の経験のある配当投資の専門家。「Get Rich with Dividends(邦題:日本人の知らない秘密の収入源 年100回配当投資術)」著者。2013年に配当投資の専門誌Oxfordインカム・レターを創刊し、世界中に読者を持ち有料購読者は8万人を超える。FOX、CNBC、Forbesなどの有名メディアはもちろん、BloombergやBarrons、The Wall Street Journalといった権威ある金融専門メディアにも多数出演。 マークの記事一覧 ≫

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