水素市場にチャレンジする3つの米国企業

前回のメルマガでご紹介した”究極のクリーンエネルギー”と呼ばれる水素。
今回はその水素により生み出される新たな市場や、将来的に収益成長の恩恵が期待される米国の参入企業3社をご紹介していきます。
(前回のメルマガはこちらからご覧いただけます。)
勢い増す水素市場
トヨタ自動車などが加盟する水素協議会(本部ベルギー)は、2050年までに世界の水素関連市場を以下のように試算しています。
2050年の水素経済
- 市場規模:2.5兆ドル(325兆円)
- 二酸化炭素(CO2)排出量削減:60億トン
- 雇用創出:3,000万人
あらゆる製品に活用され、今後さらなる市場拡大が期待される半導体市場でさえも、市場規模予測は2050年に9,000億ドル前後。
これを踏まえると、水素はとてつもなく大きな可能性を秘めた技術であると考えられるのではないでしょうか。
では、なぜここまで市場が大きくなると考えられているのか、水素が作られてから利用されるまでのサプライチェーン(供給網)を踏まえながらみていきましょう。
「作る」「運ぶ」「つなぐ」「使う」
(出所:環境省HP)
水素の市場規模が大きくなる最大の理由は、従来の使用用途から大きく拡大される見込みがあるから。
そのため、「作る」「運ぶ」「つなぐ」「使う」の4つからなる水素サプライチェーンは、どの部分でも積極的な開発が進められています。
サプライチェーンの4つの部分にある課題と、新たに生まれる主な新規事業分野は次のとおり。
水素を作る
水素を作る際の最大の課題は、CO2の排出量を削減しながら大量の水素を低コストで製造すること。
【新規事業分野】
- 水を再生可能エネルギー由来の電力で分解する水電解槽
- 化石資源から水蒸気との反応で水素を取り出す改質法、その過程で出るCO2を回収・貯蔵するCCS
水素を運ぶ
水素を運ぶ際の最大の課題は、水素の体積を小さくし、効率よく運ぶこと。
【新規事業分野】
- 水素を大量、長期、安全に、そして安価に貯めるように触媒等を使って化学変換する水素キャリア製造技術
- 極低温(-253℃)の液化水素を安定して運搬する技術
水素をつなぐ
大規模調達した水素を人々の生活圏までつなぐため、供給ポイントが必要。
【新規事業分野】
- 水素ステーションの建設
- 水素ステーションで使用する機器の開発
- パイプラインの建設
水素を使う
化石燃料を水素燃焼に置き換えるための技術開発が必要。
【新規事業分野】
- 水素を動力源に走る自動車、電車、航空機、船などの開発
- 水素と酸素の反応で電気を生む燃料電池の開発
- 水素を活用した製鉄技術の開発
水素市場へ米国企業も参入
実は、水素の可能性にいち早く目をつけたのは日本であることをご存知でしょうか?
エネルギー自給率の約9割を輸入に依存している日本にとって、資源がなくてもエネルギーが確保できる水素は非常に魅力的なものであったため、世界に先駆けて2017年には「水素基本戦略」というものも掲げ、推進していました。
しかし、脱炭素の流れなどを背景に欧州が本腰を上げ、その後中国、米国などあらゆる国が国家戦略として水素を取り上げるように。
その結果、世界各国の企業がしのぎを削る市場へと変化しています。
今回は水素市場へ参入する企業の中から、代表的な米国企業を3社ご紹介したいと思います。
エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズ
エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズは、酸素、窒素、アルゴン、水素などの産業ガスを化学、石油精製、金属、電機、食品、医療など、さまざまな分野に提供する産業ガスの世界的企業です。
水素サプライチェーンでは「作る」、「運ぶ」、「つなぐ」部分に参入し、製造過程で二酸化炭素(CO2)を出さない「グリーン水素」を製造しています。
2022年12月には、エネルギープロバイダーのAES社とともに、米国最大のグリーン水素施設をテキサス州に建設する計画を発表。
水素市場にますます本腰を入れています。
カミンズ
カミンズはディーゼル・天然ガスエンジン、発電装置、エンジン関連製品の米国大手メーカーで、大型トラック、バス、RV車、農業機械、建設機械、掘削機械、船舶用の各種ディーゼル・エンジンを製造しています。
水素サプライチェーンでは「作る」と「使う」部分に参入し、グリーン水素の製造と燃料電池の開発を行っています。
同社は2020年11月に水素製造と燃料電池の事業を拡大し、グローバルパワーリーダーとしての地位をさらに強化するための計画を発表。2025年に電解槽で少なくとも4億ドルの収益を生み出す計画の全体像について公表しました。
日本企業のコマツとも提携し、水素燃料電池などの開発を行っています。
プラグ・パワー
プラグ・パワーは、電動フォークリフトなど、産業用運搬車両市場向けに燃料電池システムの設計、開発、商業化、製造を手がける企業です。
水素サプライチェーンでは、「作る」、「運ぶ」、「つなぐ」、「使う」の全てに参入しています。
同社は2019年にロボット向けなどのコンパクトな燃料電池システムの技術を持つEnergyOr社を買収したほか、2020年には北米における水素製造最大手の一社であるUnited Hydrogen Groupなどを買収し、水素事業における垂直統合戦略を進めています。
水素普及における課題は?
国際エネルギー機関(IEA)は、カーボンニュートラルの達成を前提にした場合、2070年の水素需要は世界で約5.2億トンに達すると予測しています。
(出所:IEA)
しかし、水素の普及にはいくつか課題が残されています。
サプライチェーンのところでも一部触れましたが、それは技術的課題、インフラ整備、コストの3つ。
各国政府も政策や補助金などでバックアップを進めていることから、課題が克服できた分野・地域から社会実装が進むと考えられています。
どの企業が市場シェアを獲得するのかも、この社会実装のスピードがポイントになりそうです。
今回は2回に渡り、水素市場について見ていきました。
まだ社会実装されているとはいえない技術ですが、詳しく見れば見るほど大きな可能性がある分野であると個人的には感じています。
これから確立される市場ですので、参入企業が市場で成功するのかどうか、見極めが難しい分、大きな市場シェアを獲得した際には、株価の評価にも大きく影響すると考えられます。
そういった企業をいち早く見つける方法の一つは、常に新しい情報を仕入れること。
様々な情報ソースに触れて、自分なりの仮説が立てられるくらい、業界や企業を知ることが一番の近道です。
我々も現地アナリストによる分析など、リアルな米国の情報をお届けしています。
ぜひ有効活用してみてください。
小島璃子
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