個別の企業を見よ。市場全体ではなく。
私は、市場の動きを予測しタイミングよく売買しようとする投資は危険である、ということを常にお伝えしています。なぜなら歴史上、偉大な投資家を含め誰もそのようなことに成功した人はいないからです。
稀なケースとして、10年に一度ほどの頻度で株式市場全体が極端な状態に陥ることがあります。株価がかなりの割高になっているにも関わらず楽観的すぎたり、あるいはかなりの割安になっているにも関わらず絶望的すぎたりする場合です。
しかしおよそ95%のケースにおいて、株式市場全体は、急いで売らなければならない状態でもなければ、激しく買わなければならない状態でもありません(ただし、個別銘柄についてはこのような状態があり得ます)。
にも関わらず、頻繁に売買を繰り返す投資家がいます。
売買手数料やキャピタルゲイン税を支払ってそのようなことを行なっているにも関わらず、完全にタイミングを誤っていることが多々あります。つまり、下がりそうな時に買い、上がりそうな時に売ってしまうのです。
さらに悪いことに、強気の上昇相場が長期間続いた時には、彼らは完全にチャンスをものにできません。なぜなら彼らは市場が下落したらエントリーしようとタイミングを待っているわけですが、なかなかそうならないからです。どんどん上昇していく相場をただイライラしながら見ているだけになってしまいます。
そのようにチャンスを逃してしまうと、また投資しようという気持ちが薄れてしまいます。そうなれば、低いリターンの債券へ投資しようと考えたり、単に貯金したまま置いておくことになってしまうのです。
先日、ある同僚が私にこう言いました。
「市場のタイミングを計ることができないのは認めるよ。でも、もし君がいうことが本当なら、単にインデックスファンドを買って保有すればいいんじゃないのかい?」
この考えは間違っています。
もしあなたがアクティブ投資家になる時間も興味もなく、平凡なリターンで満足だというのであれば、インデックスファンドを購入するのも良いかもしれません。しかし、インデックスファンド(つまり株式市場全体)を上回るリターンを得ることは可能です。とはいえ、いつ市場に参入し、いつ抜けるかを推測するわけではありません。
賢い投資家は、その代わりに個々の企業のもつビジネスそのものを評価します。このアプローチにこそ、市場を上回る高いリターンを実現する可能性があるのです。
米国の歴史における偉大な投資家たちについて考えてみましょう。ウォーレン・バフェット氏、ピーター・リンチ氏、ジョン・テンプルトン氏などが良い例です。3人の投資手法は全く異なります。リンチ氏は成長投資、テンプルトン氏はグローバル投資の先駆者、バフェット氏は(現在もそうですが)バリュー投資でした。
彼らは皆、株式市場を上回る、驚くべき長期的リターンを得ています。しかし、いずれの人物もマーケット・タイマー(マーケットのタイミングを予測する人)ではありませんでした。彼らは皆、株式市場の次の動きなど分からないと言っていたのです。
彼らが知っていたやり方は、本来の価値よりも割安で売られている銘柄を特定し、その価値が株式市場で認められた際に売却することだけでした。
(一部の例外として、バフェット氏は自らのお気に入りの銘柄を「永遠に」保有すると主張しています。しかし現実には、バークシャー・ハサウェイ社は、半世紀以上の間に何十もの個別銘柄を売却しています。)
あなたも、偉大な投資家たちと全く同じ手法を取るべきです。
株式市場の上昇相場に乗り、下落相場を回避し、再び上昇相場に乗る、という幻想は忘れましょう。それは単なる夢物語です。
最近、あるメンバーが、「動きを確実に読むことができないのは、個別銘柄でも同様だ」という懐疑的な考えを示しました。彼の言う通りです。投資の世界において確実性などほぼ存在しません。
しかし、世界の金融市場の動きを予測するより、特定のビジネスの見通しを分析する方がはるかに容易です。
結局のところ、市場は国内外の経済成長、金利の変動、コモディティ価格の上昇や下落、通貨の変動、インフレ率、新たな法律や行政命令、政治的な動き、その他さまざまな出来事に基づいて日々変動しています。その多くは、まったく予測できないものです。
世界はあまりにも大きく、ダイナミックで、複雑なので、株式市場の動きは決まったパターンに収まることはありません。
だからこそ、もっと小さく考え、個々のビジネスとその売上や収益の見通しに焦点を当てる方がはるかに効果的なのです。
もちろん、去年のコロナパンデミックのような調整局面では、個別のビジネスの見通しが良好であったとしても値下がりする銘柄があります。
しかしそれこそが、市場に眠る最高のチャンスということです。
良い投資を。
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