シリコンバレー銀行危機の影響

先週末、スタートアップ企業への融資などを中心に事業拡大してきたシリコンバレー銀行(SVB)と、暗号資産関連のサービス提供を中心に事業拡大してきたシグネチャーバンクが経営破綻しました。
起こった事実(ファクト)と市場への影響としては、
○バイデン大統領が会見し、金融システムが安全である(全体への波及はさせない)旨を明言(かつ破綻処理に税金は使わない旨も明言)。
○米国債金利は大きく低下。9日に5%超えで推移していた2年国債金利は、15日には3.9%付近で引け。同じく、9日に一時4%越えで推移していた10年国債金利は、15日には3.5%付近で引け。
○次回3月の連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げ幅の市場予想は、9日には78%程度の確率で0.5%の利上げとなることが織り込まれていたが、15日引け時点では、0.5%予想はゼロ。利上げ幅が0.25%となる確率と利上げ無しの確率が、概ね半々程度に。
○銀行関連株価が連想で連れ安するなか、欧州にも飛び火。従来より不祥事などが相次いだクレディ・スイスの筆頭株主が追加出資の可能性を否定し、同行の株価が大きく下落。信用不安を招いたことから、スイス中銀は同行に対する最大7兆1千億円程度の調達支援を決定。
といった、目まぐるしい展開が起きています。
2008年のリーマンショック以降、大手銀行の事業は監督官庁によって厳しく管理されているなか、資産規模2500億ドルに満たないSVBのような中堅行は、トランプ前政権下において、大手銀行に課せられるような規制の対象外とされました。
バイデン大統領のいうとおり、銀行システム全体に波及する問題ではなく、個別事象として対処されていますし、また、経営破綻に至る過程が異例で、引き金となったのは、急激な預金流出が原因ということで、諸々を踏まえ、今後規制の強化も図られていくことが想定されます。
また、クレディ・スイスについては従来より苦しい展開となっていた中で、不幸な飛び火となった感は否めませんが、政府が即座に流動性のサポートを表明したことからも、断固として金融システムを守ろうという各国政府の対応が見てとれます。株式市場全体にとっては安心を誘う材料です。
昨年は大きく金利上昇し、債券を大量に保有する機関投資家は拡大する評価損に苦しめられました。これは日本も例外でなく、評価損の拡大によって、配当原資が不足するなど、苦しい展開となる金融機関が出かねない状況があり得ると、引き続き念頭に置いた方が良いと感じます。
なお、今回のSVB問題の最中においても、ナスダック総合指数は13日以降、3日連続で上昇し、金利下落に伴い国債価格は上昇していますので、今後も個別に上昇下落が分かれる傾向が強まっていくことが想定されます。
では、こういった流れを受けて、個人投資家はどのように対応していくのが良いのでしょうか。
日頃より、株式投資は長期的な視点で実践することをベースとするのが理想であると、このメルマガでもお伝えしています。
長期的視点では、今回の事象を受けて連れ安している優良な金融機関があり、それらに対しては魅力的な投資タイミングとなる可能性が高いと考えられます。
とはいえ、短期的視点では、台風の目が移っている最中といいますか、影響が飛び火していくことも想定されることから、何をもって完全にあく抜けするのか、株価の底値となるのかは、現時点では誰にも分かりません。
悪いニュースとして、連鎖的に破綻が懸念される金融機関が取り沙汰されるかもしれませんし、
一方で、その懸念を受けて、当局は小規模銀行や地銀からの資金流出を食い止めるために国内の全ての預金を一時的に保証することが必要になる可能性を視野に入れた動きをしてくると思われます。
従いまして、今後、余波として多少の乱高下が継続しても良いように、ハンドルさばきには多少のゆとりを持ったうえで対応していくことをお勧めしています。
凧あげの時に風が強ければ、糸を伸ばしきらずにうまく出し入れしていくのと同じ感覚で、短期的には風向きが変わる可能性があるという視点のもと、投資行動を粛々と行なって頂くと良いと考えます。
なお、連邦預金保険公社(FDIC)を中心に、経営破綻したSVBとシグネチャーバンクを買収する金融機関の応札がまとめられており、17日に締め切られるとの見方がロイター通信により報じられています。
どこが買収するのかが決定し、事業継続の見通しがたつと、関連で下落している企業の多くは株価が回復に向かうと期待されます。
今回の事象を受けて、個人的には、景気後退懸念の高まりを受けて、金利引き上げ想定が大きく後退した点をポジティブに受け止めています。
1週間前には、3月の会合で利上げ幅ゼロになると考えている人は誰もしませんでした(確率0%でした)し、逆に今は、利上げ幅が0.5%となると考えている人は誰もいません(米国時間15日の引け時点では確率0%です)。
株式市場は楽観に傾きやすい傾向にあり、現状、夏以降に利下げされる想定が織り込まれている点はやや気が早いし、今後修正されるかな、という気もします。
現在、FOMCメンバーは会合前で発言ができないブラックアウト期間にいるため、コメントが発信されません。来週のFOMC会合におけるパウエル議長の会見と、FOMCメンバーによる金利予想(ドットプロット)に注目が集まります。
いずれにせよ、利上げは今年終わりますし、緩やかな景気後退を経るかもしれませんが、米国経済は長期的に成長を続け、株価指数も来年には最高値を更新する展開が語られるようになるかもしれません。
その局面に向けて、山頂を目指す登山家のごとく、ある時は嵐が過ぎるのを待ち、ある時は力強く前に進み、高みを目指していく投資家の方と一緒に歩んでいく所存です。
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志村 暢彦
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