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短期VS長期

米国株の回復が継続しています。S&P500種株価指数は、米国時間8月10日の市場では上昇し、4,210.24ポイントで引け。今年5月5日以来の高値水準です。

これは、今年1月4日の高値4,818.62と6月17日の安値3,636.87の半値水準にある4,227.75をほぼ回復した点が、意義のある内容と見ています。

「半値水準」という単語が耳慣れない方も多いと思いますが、これは、フィボナッチ比率という数学の考え方をベースとした、市場分析の手法の一つ(チャート)で使われる概念です。

Oxford Club Japanではチャートはあくまで補完的・俯瞰的に市場の状況を見るためのサポート材料の一つと捉えており、その推移を判断基軸の中心に据えることはありませんが、局面に応じて市場参加者の多くが判断材料として認識することがあり、結果として効きやすい状況もあると考えます。

なお、米国株では皆が同じチャートを見ることはなく、それぞれ自分の好みに合ったものを使いますが、その中でも、使われることの多い手法の一つに「フィボナッチ」があります。

フィボナッチ比率といっても耳慣れないかもしれませんが、日本語では「黄金比」と言われたりします。

例えば、巻貝とかヒマワリの種、植物の葉など自然界に多く見られる比率で、これを元に、ピラミッドが設計されたり、「最も美しいものの比率」とも言われます。

このフィボナッチでは、38.2%と61.8%の比率が重要視されますが、半値戻しの50%も補完的に用いられることが多くあります。

もちろん、投資の本質は、「市場の期待値と実勢の乖離に着目し、その乖離が縮むタイミングを予測すること」なので、チャートについて、詳しくは別機会にご説明したいと思います。

 

さて、8月10日の株価上昇の背景には、発表された7月の消費者物価指数(CPI)が市場の予想平均値を下回ったことがあげられます。

つまり、今年前半の弱気相場の主要因であった「インフレ」について、解決に向けた進展の一端が見られたことを市場が好感した、ということです。

インフレ見通しの低下 → 追加的な利上げの必要性の低下 → 経済成長を阻害する要因の排除、および金利低下に伴う理論株価の上昇 という連想で、株価上昇を期待する投資家によるリスク選好的な投資行動が増えたと言えます。

職業病的にシニカルな意見を言いがちなエコノミスト的観点では、

「インフレ指標の落ち着きが見られたと言っても、まだ高水準であることに変わりは無く、追加利上げが行なわれることに変わりはない」 とか、

「歴史的には景気後退期入りした際にはそこから抜け出すまで一定期間が必要だ」 といった声も聞かれます。

ただ、株価下落の主要因が解決に向けて進展していて、そして主要指数が底値から半値戻しとなったことを受けて、想定を大きく超える事象が起きない限りは、6月の底値を割れて再び底値を探りにいくシナリオの可能性は低下したと見ています。

 

投資銀行のエコノミストは、市場の楽観に違った視点を提唱するのが仕事の一つであったり、市場の変動幅が大きくなることで投資銀行のビジネスに恩恵が生まれるので、短期的な視点で述べられることも多く、また、投資家の行動に対して、水を差すことになります。

ネットメディアが何を取り上げるのか、といった観点もあり、市場の趨勢と異なる意見や、人の恐怖に付け入る意見(相場下落とか)を取り上げ、より多くの人に読まれるためのニュースという視点で内容が決められる側面がある点も否定できません。

もちろん7月14日から、大きな調整無く相場上昇が継続してきた現在、短期的な株価調整することも視野に入れ柔軟な対応がベターな銘柄もあるでしょう。

ただ、個人投資家はそういった短期目線の意見も踏まえ、少しずつであっても利益や損失の確定をしながらも、軸足を長期目線の資産形成におき、投資行動を継続していくことが、資産形成の成功の鍵なのではないでしょうか。

 

志村 暢彦

 

追伸
Oxfordクラブでは、配当投資にフォーカスしたインカム・レターと、成長株にフォーカスしたキャピタル・レターをご用意して、それぞれ長期目線での投資アイデアをご案内しています。マクロファンダメンタルズの状況を見据え、『米国の今』について経験豊富なストラテジストが分析した内容も掲載しています。

志村 暢彦

Oxford Club Japan チーフ・ストラテジスト 助言統括者。金融業界歴24年。業界経験としてはファンドマネージャーとしての期間が最も長い。2019年Oxford Clubチーフ・ストラテジストに就任。日ごろより、金融力は国力そのものであると考えおり、金融業界の心臓部や裏側で働き、政官財を含め、日本の金融の実態を見てきた経験をもとに、日本の金融リテラシー向上と、個人の理想的な資産形成の実現について、情報の収集と発信をしている。 著者の記事一覧 ≫

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