8日間で1000億ドルが無くなった“事件”
12月4日水曜日の朝、ユナイテッドヘルスケア・グループ(UNH)のCEOブライアン・トンプソン氏が銃撃されました。
彼はニューヨーク市マンハッタンのニューヨーク・ヒルトン・ミッドタウンにいました。
彼は同社の投資家向け会議に向かって歩いていたのです。
そのとき、それが彼の最後になるとは夢にも思っていなかったでしょう。
そして、彼の死がインターネット上で喝采を浴びることになるとは…。
その間にも、投資家たちは何十億ドルもの損失を被りました。
3つの言葉による宣言
遅らせろ
否定しろ
退陣させろ
これが、トンプソン氏殺害現場で発見された薬莢(やっきょう)*に書かれていた3つの言葉です。
*銃砲の発射薬を詰める容器
これは、ラトガース大学の法学教授であるジェイ・ファインマン氏の2010年の著書『Delay, Deny, Defend: Why Insurance Companies Don’t Pay Claims and What You Can Do About It(遅延、拒否、防御:保険会社が保険金を支払わない理由と、それに対してあなたができること)』を引用したものであると思われます。
殺人事件の個人的な動機を超えて、トンプソン氏の殺害は多くのアメリカ人の共感を呼びました。
そして、彼らはこの大胆な暴力と復讐行為に喝采したのです。
その理由の一つが、ユナイテッドヘルスケア・グループは業界で最も高い保険金請求拒否率であることでしょう。
実際、32%という数字は、保険金請求全体のほぼ3分の1に相当し、これは業界平均の2倍にあたります。
その上昇の一因となっているのが、人工知能(AI)です。
ユナイテッドヘルスをはじめとする保険会社は、請求の審査と却下にAIの導入を開始しています。
そして10月には、米国上院常設小委員会が、ユナイテッドヘルスによるポストアキュートケア(退院後の患者を自宅に戻すために必要な医療)の却下件数がわずか2年間で2倍に増加したことを公表しました。
メディケア・アドバンテージプランの請求却下率は、2020年の10.9%から2022年には22.7%に上昇しています。
これは、同社がAI「nH Predict」を導入した時期と一致しています。
注目すべきは、ユナイテッドヘルスと保険会社ヒューマナの両社が、このプログラムの利用をめぐって訴訟を起こされていることです。
トンプソン氏に対する行為は、湧き上がる憤りと怒りの封印を解いたと言えるでしょう。
その影響はウォール街全体にまで及んでいます。
8日間で1000億ドルが消失
12月4日、ユナイテッドヘルスの株価は611.02ドルで始まりました。
しかし、12月12日には15.5%下落し、終値は515.76ドルとなったのです。
つまり、同社の企業価値は8日間で5637.6億ドルから4746.5億ドルへとなり、ほぼ1000億ドルも下落したことになります。
そして、ユナイテッドヘルスは業界最大手です。
リーティングカンパニーが動くと、業界全体がそれに追随することがよくあります。
大手保険会社であるシグナ・グループ(CI)、エトナを傘下に持つCVSヘルス(CVS)、アンセムを傘下に持つエレバンス・ヘルス(ELV)の株価は、ユナイテッドヘルスに連動して下落しました。
しかし、より大きな打撃を受けたのは、オスカー・ヘルス(OSCR)のような小規模な保険会社でしょう。
しかし、株価の下落はこれにとどまりません。
保険会社の経営陣に対するさらなる報復を恐れて、企業はウェブサイトから顔写真を削除し、セキュリティを強化し始めています。
また、オスカー・ヘルスCEOのマーク・バートリニ氏は、トンプソン氏の死に対するアメリカ人の同情の欠如、および殺人犯逮捕に向けた一般市民からの支援の欠如は、業界にとって「目覚めの呼びかけ」となるべきだと述べています。
多数のアメリカ人から喝采を浴びているこの事件は、医療業界における大きな混乱、そして暴力の始まりに過ぎないのではないかという懸念も出ているのです。
すでに、ユナイテッドヘルスをはじめとする企業は、時価総額にして数十億ドルの損失を被っています。
そして、投資家たちは、底値がいつになるのか頭を抱えているのです。
恐らく新政権が発足し、明確な行動方針が打ち出される1月まで待たなければならないでしょう。
マシュー・カー
〜編集部〜
P.S.
マシューのX(旧ツイッター)アカウントを始めました!
普段、マシューのメールマガジンは週に1回の配信ですが、Xではそれよりも頻度を多くマシューの発信をしていく予定です。
1分程度で気軽に見れる内容の発信をしていきますので、ぜひアカウントのフォローをしてご覧ください。
以下のQRコードから、スマートフォンで簡単にアカウントをご覧いただけます。
今回の記事はいかがでしたか?
あなたの資産形成に少しでもお役立ていただければ幸いです。
Oxford クラブでは、このような記事を33万人のメールマガジン会員様に毎日無料でお届けしております。
公式サイトからでも1週間にお届けする7つの記事のうち4つはお読みいただけますが、3つはメールマガジン会員様に宛てたものとなっております。
毎日2分メールをお読みになるだけで、少しずつ米国株による資産形成のコツを身に付けていただけるでしょう。
あなたのタイミングで投資をご検討されてはいがかでしょうか?