投資情報

スーパーマイクロコンピューターの行方はいかに?

キッチンで働いた経験のある方なら、間違いなく「落ちてくるナイフには持ち手がない(A falling knife has no handle)」というフレーズを耳にしたことがあるでしょう。

ナイフが落ちてきたらすぐに手を頭上に上げるように教えられます

理由は単純です。

リンゴであれ、クッションボールであれ、チェーンソーであれ、鋭く研いだナイフであれ、落ちてくるものや落としてしまったものをつかまえようとする本能的な衝動に対抗するためです。

ですから、私たちは自分自身を傷つけてしまわないように、手を上げるように注意するのです。

投資においても、同じアドバイスをすることができます。

落ちてくるナイフをつかまえようとしてはいけません

急落する株価は、現実世界で転がり落ちてくる刃物と同じくらい致命的なものになり得ます。

しかし、それが危険なものなのか?

あるいは安く買えるチャンスなのかを見分ける方法はあるのでしょうか?

いずれにしても落ちてきたナイフは床に落ちた後に拾うと、安全なはずですよね?

 

エヌビディアよりも3倍優れていた株

 

8か月前、スーパー・マイクロ・コンピュータ (Nasdaq: SMCI) はウォール街で話題になっていました。

半導体企業である同社は、人工知能の可能性とエヌビディアからの波及効果に後押しされて、高値を更新していました。

実際、2023年1月から2024年3月13日までの間に、SMCIの株価は1,300%以上も上昇したのです。

これは、エヌビディアの2倍以上のパフォーマンスであり、同じ期間におけるS&P 500種株価指数の37倍以上の利益です。

出所:TradingView

この上昇局面で同社の株式を保有していた場合、ウォール街で一儲けできたことでしょう。

特に、投資家や企業がエヌビディアに代わる投資先を探していたため、エヌビディアの得意分野で勝利を収めることができました。

スーパーマイクロの収益と純利益は大幅に増加しました。

2024年度の収益は149億4,000万ドルで、2022年度の51億9,600万ドルの約3倍に増加。

2022年度の純利益は2.85億ドルでしたが、2024年には12億ドル増加しました。

この成功により、スーパーマイクロの株価は急騰し、同社はエヌビディアと同じように10株につき1株の割合で株式分割を発表しました。

そして今年3月には、その成長が認められ、同社は誰もが欲しがるS&P500のメンバーとなったのです。

しかし、とあるきっかけによって、糸が切れたようにスーパーマイクロのすべてが崩れ始めました。

急速かつ壊滅的な凋落が始まったのです。
 

SMCIの「非常に悪い数か月間」

 

ウォール街では、悪いニュースは磁石のように引き寄せられることが多いものです。

8月末、同社は年次報告書(10-K)の提出を延期すると発表しました。

ベテラン投資家ならご存知のように、これは良い兆候であることはほとんどありません。

ほぼ同時期に、有名な空売り投資会社であるHidenberg Researchが、スーパーマイクロに関する痛烈な報告書を公表しました。

その報告書は、同社が横行する財務不正行為と「不適切な収益認識」を行なっていると非難するものでした。

この報告書がきっかけとなり、米国司法省による調査が開始されました。

その後、スーパーマイクロはナスダックから書簡を受け取り、同社が上場規則に準拠していないため、10-Kを提出しない限り取引所から上場廃止となる旨が通知されたのです。

すると、同社の監査法人であるアーンスト・アンド・ヤングが辞任を発表しました。

さらに、同社の財務諸表と「関連付けられることを望まない」とまで述べています。

そして、スーパーマイクロは7 – 9月期の暫定結果を報告しましたが、それは散々なものでした。

同社は、7 – 9月期の収益と売上高を大幅に下方修正し、さらに次の10 – 12月期の収益と売上高も下方修正したのです。

今後、10-Kの提出が奇跡的に土壇場で認められたり、提出計画が認められたりしない限り、スーパーマイクロはナスダックから上場廃止となるでしょう。

恐らくこのメールマガジンをお読みになる頃にはそうなっている可能性が高いです。

それほど急速にすべてが崩壊したのです。

スーパーマイクロがS&P500への加入を発表した3月14日以降、株価はおよそ84%下落しました。

出所:TradingView

 
驚くべきことに、同社の株価が下落している今こそ買い時だという見出しや記事を目にするようになっています。

なぜそんなことが起こるのか、そしてなぜ私が業務用厨房で働いていた頃の夜を思い出すのか、その理由をご説明しましょう。
 

この“落ちてくるナイフ”を拾うべきか?

 

自分自身をコントロールできない企業があります。

スーパーマイクロは、そのうちの1社。

同社は波乱万丈な過去を持つ企業です。

実際、株式が上場廃止になるのは今回が初めてではありませんし、収益の虚偽報告で非難されるのも初めてではありません。

2018年には、スーパーマイクロのサーバーにスパイウェアとバックドアが仕込まれていたことが中国の下請け業者によって報告されました。

これらのサーバーは、商業顧客だけでなく、米国政府の諜報機関にも販売されていたと報告されています。

2018年8月23日、ナスダックは財務報告書の提出を遅延したとして(現在も同様)、スーパーマイクロの株式を上場廃止しました。

そして、「広範囲にわたる会計違反」により米国証券取引委員会(SEC)に罰金を支払った後、2020年1月にようやく再上場を果たしました。

その間もスーパーマイクロの株式は取引されています。

そして上場廃止日から再上場までの間、35%上昇しました。

しかし、現時点での問題は、スーパーマイクロのリスクがまだ終わっていないことです。

同社の株はまだ下落する可能性があります。

例えば、同社は年間150億ドル近い収益を発表しています。

つまり、大手会計事務所「ビッグ4」の1つであるデロイト、アーンスト・アンド・ヤング、KPMG、プライスウォーターハウスクーパースのいずれかが財務諸表を作成しなければなりません。

アーンスト・アンド・ヤングは辞任し、同社から距離を置いているため、他の3社は急いでその仕事を引き継ぐ必要はないかもしれません。

次に、複数の当事者によって多くの警告が発せられたため、おそらく長期間にわたる調査と罰金が課されるでしょう。

それは同社の事業と顧客の信頼にどのような影響を与えるのでしょうか?

ここでは、機会よりもリスクの方が大きいのです。
 

忘れないでください。

もちろん、株価が下がったタイミングが割安と判断して投資チャンスになり得ることはよくあります。

ただそれは、その企業に本当に「価値」がある場合に限った話です。

今回の場合は、企業の株価が84%下落したからといって、その株に「価値」があるというわけではありません。

現在取引されている株価からさらに84%下落する可能性もあります。

特に、そのナイフが数か月前には引き出しの中で最も輝く刃物のひとつであった場合には、急いで飛び込んで落ちていくナイフを捕まえようとするのは簡単です。

しかし、それは危険な考え方です。

ですから、手を上げてください。

ナイフを床に落としてください。

そして、きれいに洗ってすすいでから、もう一度それに手を伸ばしてください。

そうすれば、リターンが得られるチャンスが訪れるでしょう。

 

マシュー・カー

 

〜編集部〜

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Matthew Carr(マシュー・カー)

Oxford クラブ・ジャパンのチーフ・インベストメント・ストラテジスト。金融業界で20年のキャリアを持つ。 企業の中ではある一定のサイクルで株価が上下する銘柄があると言われており、マシューの専門はそのサイクルを見つけ出すこと。 彼の専門領域は石油・ガスといった伝統的な産業から、AI、5Gといった最先端テクノロジーなど多岐にわたる。 マシューの記事一覧 ≫

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