トレンド投資

自動車業界を変えるのはテスラではなく?

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行は、
世界中の経済に深刻な影響を与えました。

数か月に及ぶ感染防止措置で、経済が停滞した結果、
多くの企業が倒産し、失業者が大幅に増えることになったのです。

「巣ごもり需要」や「外出自粛」による社会の変化を目の当たりにしたことでしょう。

そして、当然のことながら、新車のような高額商品の販売数は減少しました。
なんと、世界の自動車販売台数は14%以上も下落したのです。

 

世界の自動車販売台数の推移

 

ただ、このグラフを見るだけでは、自動車メーカーにとって2020年が、いかに困難な1年であったかを理解できません。
なぜなら、2007年から2009年にかけての世界金融危機の時のデータが載っていないからです。
実は2020年は、その金融危機の時よりも販売数が落ち込んでいたのです。

しかし、このような中でも、自動車業界のある分野は活気づいていました。

その分野はなんと、過去最高の売上すら達成していたのです。

このことは、今後数年間における自動車業界の真の可能性を示しています。

 

不況の中、過去最高の売上を達成できた理由


ちなみにこれは「中古車」の話ではありません。

コロナ禍で公共交通機関を避ける人が増えたこと、
そして車の需要が拡大し、世界的な半導体不足で自動車各社が減産したことで、
中古車市場も売上を伸ばしました。

今回、お話しするのは「電気自動車(EV)」です。

2020年の世界EV販売台数は、41%と大きく伸び、新記録を達成しました。

先ほども触れたように、2020年の世界自動車販売台数は、14%以上も下落しました。
同様に、2020年の上半期の世界のEV販売台数も、前年と比較して15%落ち込んでいました。
しかし、下半期に一気に販売台数が伸びたのです。

そして、最も衝撃的だったことは、昨年欧州が中国を抜いて世界最大のEV市場になったことでしょう。
中国は国策としてEVをはじめとした、新エネルギー車の普及を促進し、世界最大のEV市場とまで言われていました。

ではなぜ、欧州はそんな中国を追い抜くことができたのでしょうか?

その理由の1つは、欧州連合(EU)による新たな取り組みです。

EUは2020年に、乗用車の新しいCO2(二酸化炭素)排出基準を、1キロメートルあたり95グラムに制限しました。

ちなみに、EUが最初にCO2の規制を始めたのは2008年です。
それ以来、規制が強化されるたびに、EVの販売台数は増加してきました。

さて、2020年上半期には、世界のEV販売台数は2019年と比べて15%落ち込みましたが、
このCO2の規制によって、欧州ではなんと55%伸びていたのです。
そして、感染防止措置が緩和されると、さらに販売が加速され、2020年の年末には、欧州のEV販売台数は倍以上になりました。

つまり、道路を走る車の10台に1台は、EVになった計算です。
そして、2021年になると、それは7台に1台の割合にまで増えました。

2022年のEV販売台数はさらに増加するでしょう。

2030年までに、EVは新車販売台数全体の27%を占めると予想されています。
それは、これから1兆3,000億ドルを超える市場になる可能性があるということです。

こう聞くと、「自動車業界がこれからどんどん伸びていく」という結論なのかと思われるかもしれません。
確かにEVという分野はこれからも成長していくでしょう。

しかし、テスラ (Nasdaq: TSLA) 、フォード・モーター (NYSE: F) そして、ゼネラル・モーターズ (NYSE: GM) のような自動車メーカーのことは、いったん忘れてください。

この分野の「真の勝者」は、他にいます。

 

変化する素材


現在、一般的な自動車にはおよそ1,400個の半導体チップが搭載されています。

エアバッグや窓ガラス、燃料噴射やナビゲーションまで、あらゆる装置を制御する現代の自動車にとって、それは重要で欠かせない部品です。
私たちが普段乗る自動車は、半導体チップがなければ動かないのです。

そして、自動車産業での半導体チップ需要は非常に活発で、
この市場は2025年までに61%近く成長して635億ドルになると予測されています。

 

世界の自動車市場の半導体チップ需要の推移予測(2021年作成)

 

しかし、大きな変化が起こりつつあります。

その変化は、EV市場を長年悩ませてきた「ある問題」を解決するために生まれました。

その問題とは、航続距離です。

EVはガソリン車と比べて、1回の補給(充電)で走れる距離が短いのです。
そのため、各社は航続距離をいかに伸ばすかについて知恵を絞ってきました。
そして、辿り着いた答えの1つが、半導体の組成だったのです。

過去50年間、半導体はシリコンで作られてきました。
それを変えようというのです。

最初に動いたのは、これまでもEV分野で革新を起こしてきたテスラです。
テスラは、EVメーカーとしては初めて、半導体チップの素材をシリコンから炭化ケイ素(SiC)に変更しました。

先ほども触れましたが、半導体チップはシリコンとカーボンでできています。
少し高価ですが、EVに必要なパワーエレクトロニクス(電力を駆動力に変換する仕組み)としての効率は高いです。
そして、そこにシリコンではなく、SiCチップを使うと次の効果が得られます。

  • 充電時間の短縮
  • モーターを駆動するための電力ロスの減少

そして特に2つ目の、電力ロスの減少によって、EVの航続距離が5%から10%伸びるのです。

テスラのCEOであるイーロン・マスクは、
「SiCチップが同社のEVの主な長所である」
とすら言っています。

そして、現在トヨタ自動車 (NYSE: TM) は、この流れに追随してSiCチップに変更しています。

このようにして、2025年までにEVに使われる半導体の少なくとも30%がSiCチップになると予測されています。

事実、今後のEVの基盤となるゼネラル・モーターズのアルティアムEVバッテリープラットフォーム(リチウムイオン電池パック)は、SiCチップを採用しています。

さて、このように、現在のEVの革新は半導体の革新によるものです。

もちろん、フォード、ゼネラル・モーターズ、テスラやトヨタのような自動車メーカーは、今後も多くの注目を浴びることになるでしょう。
しかし、メーカーや車種に関係なく、1台の車が生産される過程で1,000個以上の半導体を必要とします。

つまり、このEV分野の成長で「真の勝者」となるのは、
自動車メーカーではなく、半導体メーカーなのです。

 

例えば、ツー・シックス (Nasdaq: IIVI) 、ラムリサーチ (Nasdaq: LRCX) 、ウルフスピード (NYSE: WOLF)といった半導体企業が挙げられます。

EV分野の成長によって、盛り上がるであろう半導体分野。
その動向をこれからも追っていきましょう。

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マシュー

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Matthew Carr(マシュー・カー)

Oxford クラブ・ジャパンのチーフ・インベストメント・ストラテジスト。金融業界で20年のキャリアを持つ。 企業の中ではある一定のサイクルで株価が上下する銘柄があると言われており、マシューの専門はそのサイクルを見つけ出すこと。 彼の専門領域は石油・ガスといった伝統的な産業から、AI、5Gといった最先端テクノロジーなど多岐にわたる。 マシューの記事一覧 ≫

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