トレンド投資

アマゾンに挑む変異種企業

7月、アマゾン (Nasdaq: AMZN)の元CEOジェフ・ベゾスは宇宙に飛び立ちました。ですが、華々しい話題の裏側で、同社にとって今年は、忘れてしまいたい年となっているかもしれません。

年初来、株価上昇率が2.5%を下回っており、これは、かつて「未来の王者」と呼ばれたFAANG株の中でも運用成績が下位に位置づけられています。

FAANG株価の推移

過去数年間、FAANGは経済を大きく牽引してきましたが、今年のアマゾンの運用成績は我々投資家に、あるトレンドを示唆していると言えるかもしれません。

 

パンデミックの落ち着きが明らかにしたオンライン売上の実態


昨年からのコロナウィルスに端を発したパンデミックは、さまざまな業界に多大な衝撃を与えました。中でも、オンライン小売業ほど影響を受けた業界はないでしょう。

2018年末の時点で、電子商取引は、総小売売上高の9.6%を占め、2019年には5,785億ドルに増加、総小売売上高の10.7%を占めました。

この輝かしい成長にも関わらず、ほとんどのアナリストは、2025年もしくはそれ以降まで、電子商取引は米国の総小売売上高の上位15%に到達しないと予測していました。

しかし、新型コロナウイルスにより、その見通しは一変しました。

総小売売上の電子商取引の占有率

2020年第2四半期(4 – 6 月)、電子商取引の売上高は米国の総小売売上高のほぼ16%に達しました。これにより普及率が5年分前倒しになったと言えるでしょう。

自粛期間中、多くの人にとって必需品であり好物のキャラメルが入った大袋、ロリーポップ・キャンディが詰まったパック、グミキャンディの箱といったお菓子を入手するには、電子商取引に頼らざるを得ない状況でした。

パンデミックの影響で、ありとあらゆる買い物が電子商取引へと移行したとも言えるでしょう。

現在、総小売売上高に占める電子商取引の売上高は、ゆっくりと以前の割合へと減少しつつあります。未だに高水準と言えますが、ここで重要なのは、電子商取引が前年同期比で増加していることです。

例えば、2021年第1四半期(1 – 3 月)、米国の電子商取引の売上高は2020年の第1四半期より39%増加しました。これは、総小売売上高が16.2%増加したのに対して、2倍以上となっています。

今なお、パンデミックは終わっていません。我々はパンデミック以前の生活に戻り始めていますが、電子商取引のトレンドは、そのまま続いていくこととなるでしょう。

「アマゾン効果」で生まれた変異種企業


これまで、アマゾンは経済全体を「破壊」してきました。

同社はオンライン書店から世界的な小売業、物流、クラウド・コンピューティングの大企業へと成長し、従来型の実店舗を持つ小売販売店の存在を侵食してきました。

その結果、どの企業も同社に破壊されることを逃れるため、電子商取引を導入せざるを得なかったのです。

そして逞しいことですが、総電子商取引量でのアマゾンの占有率は堅調に伸びています。

総電子商取引量でのアマゾンの占有率

2021年、オンライン小売業大手のアマゾンは、米国の総電子商取引量の半数を占めるでしょう。

参考にして欲しいのですが、同社は世界最大規模の小売業者、ウォルマート (NYSE: WMT) のほぼ10倍の電子商取引をしているのです。

きっと、こんな話を聞くと、電子商取引の分野でアマゾンと争っても無駄だと思われることでしょう。それは、ダニー・デヴィートがモハメッド・アリとリングで対決するようなもので、もしかしたら、小柄な男のパンチも多少効果あるかもしれませんが、結局は悲惨なマッチだと予測がつくはずです。

しかし、活況を呈しているオンライン小売の世界では、ある「小柄な男」がアマゾンに立ち向かっています。その企業はチューイ (NYSE: CHWY)です。

同社は2011年に設立された、オンラインでペット商品を販売する企業です。同社のウェブサイトではペットフード、ペット用玩具、薬といった45,000以上の商品が載っています。

注目に値するのは、この事業こそ地球上でアマゾンが制覇できなかった数少ない事業の一つということです。なぜならば、チューイはペットケアという、単一ですが、成長しているすきま市場に特化しているからです。

正直に言うと、私は毎年、アマゾン・プライム会員の特典を最大限に活用しています。アマゾンがチューイを凌駕するのであれば、もっと利用したいと思っています。その反面、わたしは飼っている複数のペット達のために、何年もチューイのお得意様でもあります。

チューイがアマゾンを打ち負かす最大の武器は「自動出荷」で、猫のトイレやドッグフードといったペットの必需品を予定日に配送するシステムです。これは、消費者にとって魅力的な選択肢であり、需要が増えています。第1四半期(1 – 3 月)において、自動出荷の売上が34.4%増の14億8,000万ドルに増加し、総売上高の69%を占めています。

今後更に同企業の業績は上昇すると思います。電子商取引の売上高は、総小売売上高の2倍のペースで成長しています。これは、投資家が長期的に注目すべきトレンドなのです。

チューイのように「アマゾン効果」の変異種として登場している企業があります。このような企業は巨大な小売業として頭角を現しながら、参入しずらいすきま市場に特化することで生き残り、繁栄することができると言えるでしょう。

ハイリターンを願って。

マシュー

Matthew Carr(マシュー・カー)

Oxford クラブ・ジャパンのチーフ・インベストメント・ストラテジスト。金融業界で20年のキャリアを持つ。 企業の中ではある一定のサイクルで株価が上下する銘柄があると言われており、マシューの専門はそのサイクルを見つけ出すこと。 彼の専門領域は石油・ガスといった伝統的な産業から、AI、5Gといった最先端テクノロジーなど多岐にわたる。 マシューの記事一覧 ≫

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