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メディアが勘違いしている「大量離職」の正体

「あなたは何者ですか?本当ですか?」
 
この16ヶ月間、米国中で何千万人もの人々がこの質問について考えさせられてきました。
 
そして、その答えがもたらす影響は、私たちの経済に…そして市場に波紋を広げています。
 
はたしてこれは、すべての人に恩恵をもたらす良い潮流なのでしょうか?それとも、どん底に引きずり込む恐れのある津波のようなものでしょうか?
 
個人的には、どちらでもないと思います。
 
 

「大量離職」


私たちの人生には、「幸せになること」と「生きる目的を持つこと」という2つの大きな目標があります。
 
米国の心理学者、マズローが提唱する「欲求階層説」の5つを取り上げてみましょう。
(編集部注:人間の欲求は、自己実現、承認欲求、親和欲求、安全欲求、生理的欲求の5段階に分類されるという考え方。)
 
実際のところ、これらすべては、充実感と満足感を得るということに行き着きます。そして、多くの人がこの1年を通して、少なくとも職業的には、自分はどちらも手にしていないと気付きました。
 
そして、それが大量流出を引き起こしたのです。
 
グラフの通り、2021年、「離職率」が急速に上昇しています。
 
これまでに930万人以上の失業者がいるにもかかわらず、4月には新たに約400万人のアメリカ人が仕事を辞めました。
 
アメリカ合衆国労働省労働統計局がこのデータを収集し始めてから20年間、このようなことは一度もありませんでした。さらに衝撃的なことに、現在の離職者数はパンデミック前に比べて24%も増加しているのです。
米国の離職者推移
否定派はサンドイッチボード(編集部注:体の前後にぶら下げる2枚の広告板。デモなどで訴えを書いて利用されている)を着て、「この世はもうおしまいだ!」と声高に唱えています。
 
擁護派は、この動向を正義とし、労働者の真の力を示す例であるとして称賛しています。
 
そして、マスコミはすぐに「大量離職(Great Resignation)」というキャッチーな名前を付けて、この状況を報道しました。
 
しかし、こんな現実があるようです…
 
大量離職は、10年以上前から続いているトレンドの延長線上にすぎません。
 
実際、2020年1月、つまり、コロナウィルスのパンデミックが始まる2カ月ほど前に、「労働者が記録的な速さで仕事を辞めている!」と、嘆く記事がありました。
 
2019年、より良い環境とより良い給料を求めて、雇用主に「サヨナラ」を言うアメリカ人の割合が過去最高となりました。
 
そして、上のグラフを見ると、2009年3月の金融危機の底打ち以降、自発的離職率は着実に上昇し、記録的な水準に達していることがわかります。
 
このトレンドは、パンデミックの時に一時的に止まっただけなのです。
 
パンデミックが収束してきたことで、抑制されていた離職意欲が高まり、自発的離職率が通常の範囲に戻ってきているのです。実際、ほぼ予測通りの割合になっています。
 
 

賃金アップを強いられるアメリカ企業


景気が悪くなると、離職率が急上昇します。
 
その理由の一つは、危機的状況の中で、「これが本当になりたい自分なのか?」と自分自身を見つめ直すことにあります。
 
さらに、給与もその理由に挙げられます。
 
不満を持つ労働者の悩みはここにあって、企業は、新しい人材のために喜んで給料を15%増額します。ですが、同じ企業が現役の社員に与える昇給率は、2~3%にとどまる傾向があります。
 
もしあなたがそのような状況に置かれたら、どちらを選択するでしょうか?離職しますか?居続けますか?
 
現在、求人件数は過去最高を記録しています。そして、その多くはすぐには埋まらない状況です。
 
労働者を自社に呼び込むため、アマゾン(Nasdaq: AMZN) からマクドナルド(NYSE: MCD) に至るまで、雇用主は時給を上げざるを得なくなっています。
 
また、5月には、チポトレ・メキシカン・グリル (NYSE: CMG) が最低賃金を15ドルに引き上げました。
 
アパレル業界では、アンダーアーマー (NYSE: UAA) がこれに続き、8,000人の時間給従業員の最低賃金を15ドルに引き上げました。
 
これらは終わりの前兆でもなければ、過度に心配することでもありません。経済が正常な状態に戻りつつあることを示す、進行中かつ明るい兆候です。そのため、離職率は今後も過去最高を更新することが予想されます。
 
ただ、忘れてはならないのは、10年以上前に始まったトレンドの延長線上に過ぎないということです。
 
ハイリターンを願って。
 
マシュー

Matthew Carr(マシュー・カー)

Oxford クラブ・ジャパンのチーフ・インベストメント・ストラテジスト。金融業界で20年のキャリアを持つ。 企業の中ではある一定のサイクルで株価が上下する銘柄があると言われており、マシューの専門はそのサイクルを見つけ出すこと。 彼の専門領域は石油・ガスといった伝統的な産業から、AI、5Gといった最先端テクノロジーなど多岐にわたる。 マシューの記事一覧 ≫

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