金融リテラシー | 賢い人間は「歴史から学ぶ」

旅と叡智
今週、私はOxford クラブの「Wealth, Wine & Wisdom(富・ワイン・叡智)ツアー」でギリシャを訪れています。
32名のOxford クラブ会員に加え、メトロポリタン美術館の元館長で『Why the Museum Matters(なぜ博物館は重要か)』の著者であるダン・ワイス氏、そして哲学者であり国際的な社交家でもある友人フリッツ・サトラン氏が同行しています。
旅の途中では、世界の金融市場や資産形成についても語り合っています。
また、ギリシャワインが思いのほか美味しいことも発見しました。
フランスやイタリアの最高峰と比べることはできませんが、それでも驚くほどの品質です。
では、なぜ「叡智(ウィズダム)」ツアーと呼ぶのでしょうか?
それは、この旅が単なる楽しい体験であるだけでなく、多くの参加者が“知恵”を得るために集まっているからです。
忘れられた遺産
「記憶を失った人ほど悲しいものはない」とよく言われます。
自分が誰で、どこから来て、何を大切にしているのかを忘れてしまうからです。
そして悲劇的なことに、現代の西洋人の多くは、自分たちが受け継いだ偉大な「西洋文明」の伝統を忘れかけています。
実際、4年制大学を卒業する学生の約90%は「西洋文明史」の授業を一度も受けていません。
そのため、多くの若者が「文明とは何か」を理解できなくなっています。
文明とは、長い時間をかけて社会をまとめあげてきた慣習や信念、仕組みの集合体です。
私たちが文明的であるのは、ネット環境やWi-Fi、美食があるからではありません。
不完全ながらも、私たちの文化が何世紀にもわたる試行錯誤を経て「人類全体の幸福を広げるため」に築かれてきたからです。
しかし1960年代以降、多くの大学で西洋史は軽視され、学者や知識人は「西洋=悪」というイメージを広める運動を行いました。
奴隷制、人種差別、植民地主義、軍国主義、搾取、環境破壊、女性抑圧などの罪を強調し、自分たちの理想郷を主張したのです。
その結果、西洋人自身が「先人が苦労して築き上げてきた文化的遺産」を恥じるようになってしまいました。
では、その「遺産」とは具体的に何でしょうか?
【まとめ】文明の核心
ここギリシャに来て、ギリシャ・ローマの伝統を思い出しながら整理してみましょう。
▼ギリシャ・ローマの伝統とは
- 言語:英単語の60%以上はギリシャ語かラテン語が語源。医学の専門用語は今でもギリシャ語由来。法律用語にはラテン語が多く残っています。
- 文学:喜劇・悲劇・小説を生み出したのはギリシャ人。叙事詩や抒情詩も彼らの発明です。
- 哲学:西洋哲学は紀元前5世紀のギリシャから始まりました。権威や迷信ではなく、論理と証明を重視しました。
- 科学と技術:科学的方法は啓蒙時代に確立されましたが、その基礎は数学。数学を発明したのはギリシャ人です。
- 政治と法律:多くのアメリカ人は民主主義が1776年に誕生したと思っていますが、実際にはアテネで2000年以上前に始まっています。法の支配=「誰に対しても平等な正義を与える法律制度」という考えはローマ法学者が作りました。
- 芸術と音楽:建築様式はギリシャが発明し、ローマが応用。西洋彫刻もギリシャに始まります。音楽はほとんど残っていませんが、西洋音楽の音階はグレゴリオ聖歌に遡れます。オペラの源流も古代ギリシャの音楽劇です。
- 信仰と精神性:古代宗教は今でも世界を形づくっています。正教会とカトリック教会は、古代から現代まで連続して存続する唯一の人間組織です。
- 富と繁栄:古代の世界はお金について多くを教えてくれるわけではありません。しかしスコットランド啓蒙思想家アダム・スミスは『国富論』で「資本主義はゼロサムではなく、互いに利益をもたらす仕組み」であると示しました。
残念ながら、現代の学生の多くはこの文化遺産に無関心なだけでなく、敵対的です。
歴史家ジェームズ・ハンキンスは『黄金の糸』の中でこう述べています。
「西洋の伝統全体を『根本的に欠陥がある』と断じるのは、無知か狂信、あるいはその両方の証拠である」と。
もちろん、自分たちの伝統に忠誠を誓うあまり、他の文明の成果や弱点を見失ってはいけません。
例えば、中国は「平和的統治」の長い歴史を持ち、ヒンドゥー教や仏教社会は聖書よりも前に道徳的自己修養を説いていました。
イスラム社会もヨーロッパより早く公共の慈善制度を整えていました。
教育の欠陥に加え、近年の政治的分断や健全な議論の衰退が私たちの「道徳の中心」を弱めてきました。
今の西洋は、半世紀前より「文明的でない」とすら言えるかもしれません。
それでも、教養ある人間は「過去の偉大な成果が、現在の平和と繁栄につながっている」ことを理解すべきです。
なぜある文明は栄え、なぜ他の文明は滅びたのかを学ぶ必要があります。
そうして初めて、自分たちの社会を改善し、内なる問題から守り、外からの脅威を防げるのです。
P.S.
今回の記事はいかがでしたか?
あなたの資産形成に少しでもお役立ていただければ幸いです。
Oxford クラブでは、このような記事を33万人のメールマガジン会員様に毎日無料でお届けしております。
公式サイトからでも1週間にお届けする7つの記事のうち4つはお読みいただけますが、3つはメールマガジン会員様に宛てたものとなっております。
毎日2分メールをお読みになるだけで、少しずつ米国株による資産形成のコツを身に付けていただけるでしょう。