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誤った資本主義が投資家にもたらす影響

 
今回は少し政治的な話をします。

昨年、私は不公正な社会のあり方に目を向けようとする
イデオロギーが米国の分裂を招いている現状について、一連のコラムを書きました。

国境は有名無実化し、何百万人もの移民が押し寄せています。

窃盗はもはや犯罪行為と見なされず略奪が横行し、消費者物価は上がり続け、多くの店舗が閉鎖を余儀なくされました。

凶悪犯罪者は刑期を待たずに釈放され、法を順守する善良な市民が危険にさらされています。

女性やマイノリティは、性差別や人種差別が蔓延する米国社会の無力な犠牲者であると自分たちを位置付けています。

言論の自由は影を潜め、有害とも思われる政治が勢いを増しました。

米国民の62%が、公の場で自らの政治的見解を述べるのを控えるとしています。

残念なことに、多くの企業がこの一端を担い、
「社会的不公正を是正しようとする資本主義(woke capitalism)」の流れを推し進めているのです。

このような資本主義のあり方は、最も優秀な人材を登用し昇進させることや、顧客をリピーター化すること、あるいは株主価値を最大化することとは何の関係もありません。

ただ急進左派が掲げる社会的な課題を解決しようとするものです。

しかしながら、その課題がすべての人に共有され、またすべての人が恩恵を受けるものかというと、そうではありません。

そこに一つ目の問題があります。

 
社会的不公正を正そうとする資本主義とは、本質的に分裂を助長するものです。

例えば、従業員や求職者を特定の才能やスキル、時には欠点を持つ一個人として見るのではなく、人種や性別、性的指向に基づいた特定のグループに振り分けるのです。

言うまでもないことですが、あえて言いましょう。

人種、性別、志向の違いにより、ある人よりも別の人物の方が一定の職業に適しているということはありえません。

その逆もまた真実です。

人種、性別、志向の違いにより、ある人材が、ある職業により適しているということもありえないのです。

企業が「多様性(ダイバーシティ)スコア」を高めようと採用方針や昇進規定の変更を公にする場合、それは公正で平等な待遇を目指すからではありません。

優遇措置(preferential treatment)を導入しようとしているのです。

このような動きは、一部で反感を買うこともあるでしょう。

しかし、政治的・社会的な正しさを模索しようとする
「ポリティカル・コレクトネス(偏見や先入観を排除し政治的・社会的に正しくあろうという姿勢のこと)」の下では、たとえわずかでも反対意見を述べるだけで、偏見や無知、頑なな考え方の持ち主という非難にさらされることがあります。

このようなイデオロギーは、一体感を高め、誰一人取り残されることのない包摂的なあり方を実現するのではなく、むしろ不満や憤りの温床となっています。決して職場の結束力を強めるものではありません。

そもそも、企業が政治に関与するべきでないのです。

特に、従業員や顧客の大多数が異を唱えるような、過激な政治に関わるべきではありません。

昨年行われたPew Research Center の全国世論調査によると、ヒスパニック系(68%)、アジア系(63%)、黒人(59%)、共和党(87%)、民主党(62%)を含む米国民の74%が、人種的優遇措置(racial preference)に強く反対しています。

米国で女性やマイノリティが歴史的に差別されてきたのは事実です。

一方で、女性やマイノリティ、同性愛者らが今ほど生きやすくなった時代もありません。それにもかかわらず、彼らをめぐる状況がかつてないほど悪化しているかのように言われるのはなぜでしょうか。

圧倒的多数の米国民は、野心、才能、そして努力次第で、誰もが夢をかなえられる社会を望んでいます。

さらに、社会的不公正へ目を向けようとするイデオロギーは、Oxfordクラブが掲げるあらゆる価値観と相容れないものです。

Oxfordクラブの目標、そしてブランドは、個人のエンパワーメントです。

それとは対照的に、社会的正義を追求しようとするイデオロギーは、被害者意識を強め、救済を求める個人そのものを傷つけかねません。

女性だから、同性愛者だから。有色人種だから成功できない、成功はありえないというメッセージは、個々人が持つ本来の力を奪うものです。

このようなイデオロギーが、社会をより良い方向へと導くことはありません。むしろ、人々を苦しめ苛立たせるだけです。

影響はウォール街にも及んでいます。多くの金融機関が、投資家に高いリターンを還元することよりも、環境・社会・ガバナンス(ESG)の基準を満たすことに関心を寄せています。

ウォール街の人々や資産運用に携わる人たちの存在意義は、世界を作り変えることではなく、株主へのリターンを最大化することにあるはずです。

社会的不公正に目を向けようとしている限り、すべてが中途半端な結果に終わるでしょう。

例えば、ESGを重視するファンドマネージャーは、化石燃料産業をアンダーウェイトしているか、あるいは全く投資していません。

その判断がいかに稚拙なものであったかは、昨年特に顕著になりました。2022年にS&P500種株価指数が19%下落したのに対し、S&P500種株価指数エネルギー・セクターは59%上昇したのです。

ESGファンドは大幅にアンダーパフォームしました。

また、2050年までに米国の炭素排出量を実質ゼロにするという目標は、幻想にすぎません。

カナダの作家、Vaclav Smil氏が「How the World Really Works」の中で指摘しています。

人間社会とはすなわち化石燃料文明であり、その技術的・科学的進歩、生活の質、これまでの繁栄は、大量の化石炭素の燃焼の上に成り立っています。2050年までに世界経済を完全に脱炭素化することは、世界経済の後退という想像を超えた代償を払って初めて可能となるものです。

石油・ガス産業は、貧困を削減し、生活水準を向上させ、文字通り成長を支える産業です。それにもかかわらず、「社会的に正しいあり方を模索しようとする」ファンドマネージャーたちは、石油・ガス産業を弱体化させる政策を推進するために皆さんの投資資金を使い、しかもその過程で散々な結果を残しています。

つまり、方向性を誤った資本主義により、生産性は低下し、調和は乱れ、収益性は悪化しているのです。

次回のコラムでは、この誤った資本主義のあり方が、大手上場企業や株主たちに数十億ドルもの損失を与えている現状について説明したいと思います。

ご期待ください。

 

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Alexander Green(アレクサンダー・グリーン)

Oxford Club チーフ・インベストメント・ストラテジスト。金融・投資関係の4冊のベストセラーの著者で、40年のキャリアがある。米国で金融・投資のニュースレターであるOxfordキャピタル・レターを20年以上執筆しており、ハルバート・ファイナンシャル・ダイジェスト社はこのニュースレターをここ10年以上もの間、最もパフォーマンスの高い投資ニュースレター・ベストテンに選出している。 アレックスの記事一覧 ≫

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