美徳
ここ数回のメルマガで、「WOKE思想」がいかにグループ間の分裂を生んでいるかお伝えしてきました。
(まだご覧になっていなければ、まずはこちらのメルマガを読んでいただくことをお勧めします。)
これは被害者意識を募らせて、経済的自由という希望を失わせてしまうものです。
しかし、米国民の3分の2近くが、この新しい思想に反対すると不本意な評価を受けてしまうと感じており、「公の場で意見を述べるのが怖い」と世論調査員に語っているようです。
これは、現代版マッカーシズム*と言えるかもしれません。
*1950年代、米国共和党上院議員マッカーシーを中心に行われた米国の共産主義者に対する取り締まり運動。
もちろん、この国にはまだ差別が存在します。そして、我々はそれをなくすためにできることをしなければなりません。
しかし、世界中において女性やマイノリティに対する歴史的な闘いが繰り広げられてきたことを知らない米国人はほとんどいないでしょう。
このWOKE思想は、今や大学の教職員から中小企業、そして大企業の中枢にまで広がっています。
「WOKE・キャピタリズム*」は、株主の利益を最大化しようとする「株主・キャピタリズム(株主資本主義)」に取って代わろうとしています。これは、現代のビジネスにおいて非常に罪なことです。
*経営者が政治的な発言をしたり、社会問題の解決に乗り出したりする風潮。
上場企業は自分たちをWOKE・キャピタリズムによって、「売上高と利益を上げようとするだけの”欲張りな企業”」というイメージ以外の存在に見せようとしています。
売上高と利益を増やすために、世間体を良くしようとしているのです。
これは、美徳の象徴であるかのように見えるかもしれませんが、実際は空虚な話でしかありません。
そして、それはしばしば裏目に出て、従業員、顧客、投資家を動揺させることになります。
例えば、ウォルト・ディズニー (NYSE: DIS)は、公立学校の5歳から8歳の生徒に性的指向や性自認について教えることを禁止するフロリダ州の州法に反対しました。
この法案は、主に小学校での性的指向や性自認にかかわる話し合いを禁止し、違反した場合は親が提訴できるようになるという、親の権利強化を謳う内容です。
結果的に、全米で数千万人に及ぶ親たちの批判が続出。当然ですがその多くは現在あるいは将来のディズニーの顧客となる可能性があります。
しかもその結果、ウォルト・ディズニー・ワールドは、フロリダ州の「特別地区」としての55年の地位を失うことになるかもしれないのです。
実はディズニー・ワールドは、この特別地区という地位によって多くの州規則の適用や、一部税金の支払いが免除されてきたのです。
それを失ってしまうということです。
ウーバー (NYSE: UBER) とノバルティスファーマ (NYSE: NVS) は、Black Lives Matter*を支持する長文の声明を発表しました。
*警察への資金援助、軍隊における白人至上主義の調査、
すべてのソーシャルメディアからのドナルド・トランプ氏の永久追放を支持する
コカ・コーラ (NYSE: KO) は、従業員に「Less white(より白人らしくならないように)」つまり、より傲慢で抑圧的な態度にならないように指導する企業プログラムを実施しました。
デルタ航空 (NYSE: DAL) と JP モルガン・チェース (NYSE: JPM) は、ジョージア州の投票制限法について非難しました。
ナイキ (NYSE: NKE) は、ベッツィ・ロス*の星条旗をあしらった靴を作りましたが、その星条旗が奴隷制度を表しているという活動家の主張により、回収しました。
*初めて星条旗を作成した女性だと言われている。
フェイスブックとツイッターは、2020年の選挙前のハンター・バイデン氏のノートパソコンに関する情報を「ロシアの偽情報」とみなし、また新型コロナウイルスのパンデミックが起こった原因に関して、中国の研究所から流出したという説を「人種差別」とみなしてブロックしました。
さらにアップル (Nasdaq: AAPL) 。ペンサコーラ海軍航空基地で3人の軍人を射殺したイスラム教徒の男のiPhoneのロック解除を連邦捜査局が求めたものの、アップル (Nasdaq: AAPL) はそれを拒否しました。
しかし、同社は2022年。中国においてAirDrop機能を停止することで、共産党による市民デモの弾圧に協力しました。
多くの運用会社が、環境・社会・ガバナンス(ESG)基準を満たさない企業からの投資ファンドを差し控えています。
これらのファンドは、ほとんどが下降気味のパフォーマンスに転じていて、特に2022年はそれが顕著にみられました。
WOKE運用会社は、化石燃料企業を悪い株だとみなし、投資の対象外としています。
しかし、2022年に最も成績が良かったのは何だったでしょうか?
それは圧倒的にエネルギー・セクターだったのです。
もちろん自由市場資本主義では、どのような目標を持ってもいいでしょう。そして、それを達成するために企業が自らの資金を使うことに問題はありません。
しかし、「WOKE・キャピタリズム」は違います。
これは、経営者が事業の構築や推進とは全く関係のない、進歩的な社会的価値を推進するというものです。
明らかに多くのステークホルダーを失望させてしまっています。では、なぜ企業はそのようなことをするのでしょうか?
もちろん、第一の理由は、一部の従業員、顧客、投資家が彼らの意見に共感しているからです。
もう一つは、進歩的な政治家の機嫌をとって、自分たちに都合のよい規制を受けたいからです。
なぜなら、州や連邦政府の規制は非常に複雑で、負担が大きく、費用もかかるため、新興の競争相手を寄せ付けないようにするのです。
また、政治的な権力を行使したいけれども、選挙で選ばれるまでの時間、手間、経費をかけたくない特定の最高経営責任者(CEO)を優遇する政策もあります。
さらに、補助金や助成金も考慮しなければいけません。
例えば、2020年1月、英国の大手製薬会社アストラゼネカ (Nasdaq: AZN) は、大々的に、気候変動対策に10年間で10億ドルを投資すると約束しました。
その数か月後、同社は営利目的のワクチン開発を助成するために、米国の納税者から12億ドルの助成金(融資ではなく、助成金です)を受け取りました。
(同社は見返りはなかったと主張していますが、今12億ドルを受け取るのと、今後10年間に10億ドルを投資すると約束するのとでは、確かに良い取引のように思われます。)
また、WOKE・キャピタリズムは、特定のビジネスが引き起こした問題から注意をそらします。
例えば、コカ・コーラは従業員に「反人種差別」トレーニングを施していますが、その製品は黒人コミュニティの肥満、糖尿病、心臓病を助長しています。
ナイキは、「社会正義」を訴えるNFLクォーターバックのコリン・キャパニック氏を雇いましたが、同社の靴は非常に低賃金で働く人たちの工場で製造されていますし、もはや都会の子供たちが支払えるような価格でもありません。
多くの大企業が進歩的な政府の役割を担っています。これは企業やその株価に打撃を与えるだけではなく、政治を分極化させています。
ビジネスリーダーは、研究開発にいくら費やすか、どこで広告を出すか、製造をアウトソーシングするかなどを決定する立場であり、最低賃金の引き上げが完全雇用よりも重要かどうかを決めるのは、彼らの仕事ではありません。
また、国の二酸化炭素排出量を削減することが、会社のエネルギーコストを削減することよりも重要かどうかを決めることもできません。
もちろん、企業のCEOも市民です。ですので、彼らには個人の立場で発言する権利があります。
しかし、経営する公開企業を利用して、個人的な政治的見解を広めることは、全く別の話です。
もっと言えば、企業も個人と同じで、美徳を表現する必要はないのです。
なぜなら、企業はすでに本質的な役割を担っているからです。
企業は、我々の欲求とニーズを満たすために徹底的に戦っています。何千万という仕事を提供し、何十億という税金を納めています。
そしてもちろん、株主には長期的に優れたリターンをもたらしています。
WOKE・キャピタリズムが企業にとって必要なのか?
改めて考え直す必要があるでしょう。
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