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金 vs 株式

“Those who do not remember the past are condemned to repeat it”
(過去を覚えていない者は、過去を繰り返す運命にある)

これは哲学者ジョージ・サンタヤーナの
最も有名な言葉です。

しかし、私が一番好きな彼の言葉は、

“Skepticism is the chastity of the intellect”
(懐疑は知性の貞操である)です。

これは「疑うこと」が
非常に重要だということですが、
なぜでしょうか?

それは、世の中には
たくさんの主張で溢れているからです。

政治の主張、宗教の主張、科学の主張、
歴史の主張、法の主張、経済の主張、
商業の主張、投資の主張など…

それぞれに疑いの目を向けなければ、
正しい知性を持ち続けることはできないでしょう。

もう一つ、サンタヤーナの残した言葉で
気に入っているものに、

“Theory helps us bear our ignorance of facts”
(理論とは、事実に対する無知に耐えるためのものである)があります。
私は、友人や知人が
よく意味が分からないことを言って、

それを同じく
意味が分からない”理論”で正当化する
という現象をよく目にします。

私の友人のマイケル・シャーマー氏(Skeptic誌の発行人)は、
この現象について本を書きました。

その名も『Conspiracy: Why the Rational Believe the Irrational(仮邦題:陰謀 なぜ合理的な人が非合理的なことを信じるのか)』。

読み応えがあり、
チェックする価値がある本です。

もちろん、すべての誤った推論が
陰謀だということではありません。

多くの間違った信念は、
UFOや米国同時多発テロ、ジョン・F・ケネディ暗殺
といったものではなく、

株式市場のリターンのような、
もっと平凡なテーマに関係したことです。

例えばここ数週間、
私は株式投資家を安心させようと
メッセージを発信してきました。

それは、今年のような弱気相場であっても
分散された株式のポートフォリオは
常に十分な長期リターンを提供してきたということです。

しかし私の周りからは、

「そんなことはない、株式は過去に良いリターンをもたらしてくれなかったし、将来ももたらす見込みはない」という声が聞こえてくるのです。

もちろん将来について
議論するのは当然のことです。

しかし少なくとも過去に何が起こったかについては、
間違いなくお互い同意できるはずです。

ですが、一般的には
どうやらそうではないようです。

私の知り合いの一人が
最近こんなことを書いていました。

時間が経つと株の価値が上がるわけではありません。

実際に起こるのは、
お金の価値が下がり、
株価が高く見えるようになるのです。

実際のお金である「金」の価格は、
100年前の1920年代の好景気と
ほぼ同じ水準にあります。

1929年のダウ30銘柄は、
18オンス*の金で買えたはずです。

では、現在のダウ銘柄の価値はどうでしょうか?

それは約18オンスの金です。
つまり90年経っても、
得るものは何もないのです。

*金や銀など貴金属の重さを示す単位

 

サンタヤーナなら、
これこそ「理論が事実をすり替えている典型例だ」
と言うでしょう。

たしかに、1929年と2022年のダウ平均を
金の価格で割ると、
ほぼ同じ「18」という数字が出てきます。

ではこの間、
金も株式と同じように
上昇したということでしょうか?

残念ながらそういうことではありません。

実は全く違っていて、
この理論は意味のない、
ただの偶然の一致に過ぎないのです。

まず、この理論には
いくつかの問題があります。
一つに、ダウ平均はこの93年の間に
かなりの変化を遂げています。

スピンオフ*や株式公開買付、
スプリットオフもありました。

*スピンオフ:企業が特定の事業等を切り離して独立させること
*スピリットオフ:企業が特定の事業等を切り離して独立した新会社の株式と
親会社の株式を交換した後、親会社が減資すること。

ダウ平均に含まれる30銘柄は、
四半期ごとに配当金を支払っています。

今回の場合、93年分になりますが、
時には配当利回りが14%という
高水準になることもありました。

また、企業はこのインデックスから削除されたり
追加されたりしています。

つまり、今日のダウ平均は
1929年のものとは似ても似つかぬものであり、

途中にあった配当の支払いも
この理論には反映されていないのです。

つまり、以前と今のダウ平均を金の価格で割っても、
何の意味もないということです。

(事実を「聞こえのいい」ものに置き換えることは愚かなことですね)

1929年に金に投資した1万ドルは、
現在では約78万5,000ドルの価値があります。
たしかにこれは悪くないですね。

一方、1929年にダウ平均に1万ドル投資し、
配当を再投資した場合の価値は、
今日6,430万ドル以上となります。

これが「得るものは何もない」と言えるのでしょうか?

ダウ平均はこの間、
金の82倍もの利益を上げているにも関わらず…
(言うまでもありませんが、現金を置いておくよりも、リターンが約6,430万ドルも多いということになります)。

悲しいですが、過去のリターンを
十分に理解している投資家はほとんどいません。

しかし過去を理解しなければ、
将来について正確な予測をすることはできないのです。

アレックス

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Alexander Green(アレクサンダー・グリーン)

Oxford Club チーフ・インベストメント・ストラテジスト。金融・投資関係の4冊のベストセラーの著者で、40年のキャリアがある。米国で金融・投資のニュースレターであるOxfordキャピタル・レターを20年以上執筆しており、ハルバート・ファイナンシャル・ダイジェスト社はこのニュースレターをここ10年以上もの間、最もパフォーマンスの高い投資ニュースレター・ベストテンに選出している。 アレックスの記事一覧 ≫

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