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投資情報 | 合法だが少し“ズルい”取引


インサイダー取引の厳罰と議員の“例外”


企業の役員や取締役が重要で非公開の情報をもとに取引を行った場合、厳しい罰則が科されます。

利益はすべて没収され、1件あたり最長20年の懲役が科される可能性があります。罰金は最大2,500万ドルに達します。

米証券取引委員会(SEC)はさらに、得た利益または回避した損失の3倍までの追加罰金(いわゆる「三倍賠償金:treble damages」)を課すことができるのです。

また、将来的に上場企業の役員や取締役になることを禁止される可能性もあります。

だからこそ、「議員でない限り、インサイダー取引で市場に勝とうとするのは危険だ」と、ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたのです。

では、なぜ議員であれば危険ではないのでしょうか?

信じがたいことですが、議員が重要で非公開の情報をもとに株式、業種、さらには市場全体に影響を与える取引を行っても違法ではないのです

そう、議員たちはルールを作るだけでなく、自分たちにはそのルールを適用しないようにしているのです。

そのため、世論調査会社ギャラップの調査で議会の支持率が常に約20%前後にとどまるのも不思議ではありません。


議員たちの驚異的なリターンと活発な取引


当然のことながら、多くの議員は個別株の取引で市場を上回るリターンを上げています。

例えば、2024年、S&P500指数は24.7%という素晴らしい上昇を見せました。

しかし、20人以上の議員がその2倍、場合によっては3倍のリターンを記録しているのです。

一般の投資家が自力で市場と向き合う一方で、立法委員会に所属する議員たちは、法律可否の影響を受ける企業の株を絶妙なタイミングで売買し、驚異的な成果を上げています

フィンテック企業 Quiver Quantitative(クイヴァー・クオンタティブ) は、政府契約や企業ロビー活動、議員の株式取引などのデータを収集し、可視化しています。

このプラットフォームのデータによると、昨年最も活発に取引した議員は以下の通りです。

▼議員の株式取引例

  • ジョシュ・ゴットハイマー下院議員(民主党・ニュージャージー州)526件の取引、取引総額9,105万ドル
  • ナンシー・ペロシ下院議員(民主党・カリフォルニア州)17件の取引、3,775万ドル
  • スコット・フランクリン下院議員(共和党・フロリダ州)69件の取引、599万ドル
  • トミー・タバービル上院議員(共和党・アラバマ州)202件の取引、553万ドル
  • マークウェイン・マリン上院議員(共和党・オクラホマ州)71件の取引、440万ドル

ウォール街の格言に「金の流れを追え(Follow the money)」というものがあります。

しかし、今の時代では、より正確にはこう言うべきでしょう。

「議員たちの金の流れを追え」。

議員たちは株式市場で非常に積極的に取引しています。

本来であれば利益相反を防ぐための厳しい規制があって然るべきですが、実際はそうなっていません。


STOCK法と取引の透明化


2012年に制定された「STOCK法(Stop Trading on Congressional Knowledge Act)」は、透明性を高め、議員のインサイダー取引を防止する目的で作られました。

しかし実際には議員による取引は依然として横行しています。

ただし、現在はすべて公開情報として報告されるようになった点が重要です。

これにより、賢明な投資家は議員の取引を監視し、同じ方向に動くことが可能になりました。

現行法では、議員は1,000ドルを超える証券取引を45日以内に報告しなければなりません。

この報告書(PTR:Periodic Transaction Report)は、下院および上院の公式サイトで公開されています。

さらに、複数の外部サイトがこのデータを収集・整理し、取引の時期や規模、銘柄ごとの傾向をグラフなどで簡単に確認できるようになっています。


【まとめ】議員取引を読み解く“投資シグナル”


もちろん、すべての議員が同じ影響力を持つわけではありません。

重要なのは、特権的な情報を得やすい委員会の議員をフォローすることです。

▼特に注目すべき委員会

  • エネルギー・商業委員会:石油、再生エネルギー、バイオテクノロジー、ビッグテック関連
  • 軍事委員会:防衛産業、航空宇宙関連
  • 金融サービス委員会:銀行、保険、フィンテック
  • 保健・教育・労働・年金(HELP)委員会:製薬、医療関連

例えば、エネルギー委員会の上院議員が突然ソーラー株を買い増した直後に、再生エネルギー補助金を含む法案が提出されたら、状況は明らかです。

あるいは、議会が太陽光パネル向けの税控除廃止を決定すれば、そのセクター全体が急落する可能性があります。

頻繁に名前が挙がる議員たち、トミー・タバービル上院議員(共和党)やナンシー・ペロシ下院議員(民主党)夫妻などは、その「タイミングの良すぎる取引」で何度も話題になっています。

それでも、彼らは取引をやめません。

幸いなことに、私たち一般投資家でも議員の取引を追跡・模倣することが可能であり、実際に高い成果を上げるケースもあります。

もちろん、すべての議員取引が意味のあるシグナルとは限りません。

ただし、注目すべきポイントはいくつかあります:

▼注目すべきポイント

  • ボラティリティの高いセクターでの個別株の購入
  • オプション取引(特に短期間またはレバレッジを使ったもの)
  • 複数の議員が同じ銘柄を短期間で購入するクラスター取引

例えば、2022年後半に複数の議員がエヌビディア株を購入した後、AIブームが起こったのは象徴的な例です。

ただし、議員と同じ取引を盲目的に真似るのは危険です。

企業の本質的価値やマクロ経済状況を理解せずに追随すれば、誤った判断につながります。

高位の議員が今後の立法と関連するセクターに投資した場合、あるいは委員会審議の直前に売却した場合、それが私の「調査開始の合図」です。

議員の取引を追跡・分析する力は、投資家にとって最も過小評価されている武器の一つです。

こうした取引は、規制の動きや予算配分、政治的流れに関する特権的な洞察を反映している場合が多いのです。

慎重かつ選択的に、高品質の企業に絞り、ノイズを除き、十分な調査を行えば、この情報を活用して本物のアドバンテージを得ることができます。

情報優位こそがすべての現代市場において、ルールを作る側を追うことは、まさに賢明な投資なのです。

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Alexander Green(アレクサンダー・グリーン)

Oxford Club チーフ・インベストメント・ストラテジスト。金融・投資関係の4冊のベストセラーの著者で、40年のキャリアがある。米国で金融・投資のニュースレターであるOxfordキャピタル・レターを20年以上執筆しており、ハルバート・ファイナンシャル・ダイジェスト社はこのニュースレターをここ10年以上もの間、最もパフォーマンスの高い投資ニュースレター・ベストテンに選出している。 アレックスの記事一覧 ≫

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