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暴落へ備えよ

先日ある読者の方から、ハイグレード債、ハイイールド債、米国物価連動国債(TIPS)にポートフォリオを分散するという私のアドバイスを受け入れなかったというお話を伺いました。

「これらの債券はあまり利回りが高くなく、あなたの勧める株式のほうがより良いリターンが得られるはずです」というのが彼の言い分です。

確かにその通りなのですが、最大のリスクを回避するにはポートフォリオを分散することが重要なのです。

私は1985年から資金運用業界で仕事を始め多くの個人投資家と接してきましたが、その中で分かったのは、全額投資していたポートフォリオが突然衝撃的な急落をしてしまった場合、平気でいられる投資家は誰もいないということです。

投資での最大のリスクとは、予測できないということです。

ここでハリー・フーディーニの死を例にとってみましょう。

フーディーニ(1874年 – 1926年)は、世界で最も有名な脱出アーティストであり、スタントマンでした。そんな彼を「米国初のスーパーヒーロー」と呼ぶ人もいます。

彼の有名な脱出劇の一部をご紹介しましょう。

 

    • 200ポンド(約90kg)の鉛で重りをつけた梱包箱の中に鎖でつながれ、ニューヨークのイースト・リバーに沈められましたが57秒で脱出。
    • 拘束衣を着せられ、地下6フィート(約180cm)に置かれた棺の中に閉じ込められましたが脱出しました。ですが初めて「生き埋め」のスタントに挑戦したときには、窒息しそうになりました。
    • 足を固定されたまま水の入ったタンクに逆さに降ろされ、助手が斧を持って待機し脱出できない場合はガラスを割ることになっていました。もちろん、彼は脱出できました。
    • 足枷や手錠をかけられた後、鯨の死骸の中に縫い込まれましたが、それでも脱出することができました。しかし防腐剤として使われたヒ素の煙で窒息しそうになりました。
    • ワシントンD.C.の旧監獄の南棟にある「マーダーズ・ロウ」の看守が、フーディーニに手錠をかけ独房に閉じ込めました。彼は2分以内に脱出し、残りの時間で独房にいる8人の囚人を入れ替えました。

 

フーディーニが「神秘の達人」と呼ばれるのも当然でしょう。

実際、彼の名前を使ったイディオムがすぐに辞書に採用され、会議やパーティーで姿を消した人を、「フーディーニをやった」 (have pulled a Houdini) と表現しました。

彼の逃亡劇は、インチキや錯覚、あるいは手品のようなものだと思うかもしれませんが、そうではありません。

フーディーニは驚くほど強靭で、そして数分間息を止めることができました。また体をねじったり曲げたり、関節を脱臼させるなど優れた能力を持つ偉大な曲芸師だったのです

フーディーニのようなキャリアを考えている若者に「私が最初に行ったスタントで、まず後ろ向きに屈んで、床に落ちているピンを歯で拾ってみなさい」とアドバイスしました。

手錠をかけられて地中に埋められても、水責めの牢屋に逆さに沈められてもフーディーニは生還したのですから、彼を死に至らしめたものは何だったのかと考えるもの当然です。

フーディーニは、観客のから一番体格の良い男性をよくステージに上がらせ、そしてシャツを捲り上げて素肌を見せ、その男に思い切り腹を殴れと要求しました。彼はこの強い一撃を受けても微動だにせず、観客を驚かせたものです。

舞台上の参加者はサクラではありません。フーディーニはアマチュアのボクサーで、筋肉を柔軟にしてパンチを吸収する技を習得していたのです。

ところが1926年、ショーを見たばかりの学生が楽屋のフーディーニに近づき、何の前触れもなく拳でフーディーニの腹を激しく叩き付けるという事件が起こりました。

フーディーニは全くの無防備だったので痛みで倒れ、虫垂が破裂し、その後まもなく亡くなりました。

フーディーニの逸話からもわかるように、最大のリスクとは、思いがけない出来事がいつ起こるかわからない点です。

過去35年間、市場を揺るがした出来事の多くは、まったく予想がつかないものでした。

 

    • 1987年10月19日に起きた株式市場の大暴落で、ダウ工業株30種平均が1日で約4分の1に下落しました。
    • 1990年夏、当時のイラク共和国の大統領だったサダム・フセインがクウェートに侵攻したことにより、原油価格が高騰し、第一次湾岸戦争が勃発、直ちに弱気市場となりました。
    • 1998年、ノーベル賞受賞者が運用していた巨大なレバレッジの効いたヘッジファンド「ロングターム・キャピタル・マネージメント」が破綻。当時の米連邦準備制度理事会(FRB)のアラン・グリーンパン議長は、金融不安の鎮静化を図るために大手金融機関14社を集めて秩序ある清算を監督させました。
    • 2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロ事件2008年、金融危機の発端となったウォール街の名門銀行、ベア・スターンズとリーマン・ブラザーズの突然の破綻。
    • そしてもちろん、世界的なパンデミックとなった新型コロナウイルス。

 

このような異常事態を誰が予測できたでしょうか。

そして次に起こる大きな出来事を誰が予想できるでしょうか。

ある日突然やってくる思いがけない出来事からリスクを回避するだけでなく、生涯かけて蓄積してきた資産を守るためにも、分散投資が必要なのです。

ハリー・フーディーニのように、思いがけない事はいつ起こるかわからないのですから。

良い投資を。

アレックス

Alexander Green(アレクサンダー・グリーン)

Oxford Club チーフ・インベストメント・ストラテジスト。金融・投資関係の4冊のベストセラーの著者で、40年のキャリアがある。米国で金融・投資のニュースレターであるOxfordキャピタル・レターを20年以上執筆しており、ハルバート・ファイナンシャル・ダイジェスト社はこのニュースレターをここ10年以上もの間、最もパフォーマンスの高い投資ニュースレター・ベストテンに選出している。 アレックスの記事一覧 ≫

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