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未来を予測してはいけない

先日私は、パンデミックも沈静化し、経済活動が再開、低金利の上に、消費者や企業が現金を大量に所有していることから、今後の米国経済は好景気が期待できるだろう、とお話ししました。

J.P.モルガン・チェース、ゴールドマン・サックス、そしてモルガン・スタンレーの3社は揃って 、2021年の米国GDP成長率を8%前後と予測しています。

そうなれば1950年代以降で最も景気の良い年となります。

しかしそれは多くの投資家にとって周知の事実であり、株価にはほとんど反映されていないことも指摘しました。

ですから企業の業績、ひいては株価が上昇し続けると信じるのは当然とも言えます。しかし物事は往々にして予想通りにはいかないことだ、と理解しておくことも大切です。

それも私たちが想像もできない形で…。

1987年の株式市場の大暴落、1990年イラクのフセイン政権によるクウェート侵攻(弱気相場と湾岸戦争を引き起こました)、そして米大手ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の破綻 (金融パニックが引き起こされ、1998年にウォール街が一斉に救済に乗り出しました)、9.11米同時多発テロ事件 (米株式市場は一週間閉鎖され、開場後に急落しました)、リーマンショック(ベア・スターンズとリーマン・ブラザーズの破綻が、金融危機と大不況の引き金となりました)、そして、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック(史上最速の弱気市場がもたらされました)…これらを予測した者は居ませんでした。

つまり景気の見通しがいかに素晴らしくとも、楽観視してはいけません。

熟練した投資家は、先行きは常に、天気で言うと曇りのようなものと分かっていますから、雨の日に備えて事前準備を怠りません。

しかし長期投資家と短期トレーダーでは、異なった対策を講じる必要があります。

長期投資家にとって最も重要なのは、資産配分です。

資産配分とは、株式、債券、インフレ連動債、不動産投資信託(REIT)、貴金属など、異なる値動きをする(相関の低い)複数の資産を、ポートフォリオ内でどのように組み合わせるか、ということです。

投資家の長期的なリターンの90%は、資産配分に起因することが、さまざまな調査結果で一貫して示されています。(残りは、銘柄選択、投資費用および税金対策です)。

例えば、あなたにずば抜けた銘柄選択能力があったとしても、ポートフォリオの20%だけを株式に投資し、残りを債券や現金に投資していたら意味がありません。

対して、定番ともいえるS&P500種指数ファンドにポートフォリオの60%を投資している投資家は、その3倍を株式に投資しているのと同じ事ですから、結果、数年後、数十年後には数倍の利益をあげることができるでしょう。

長期投資家にとって重要なことは、「景気がどうなるか」や「市場の短期的な見通しはどうか」など、知りようもないことは大切なことではありません。

「自分は適切な資産配分ができているのか」が大切なのです。

この先、景気の拡大と後退はいくらでもあります。強気市場も弱気市場もたくさんあります。

しかし過去10年、50年、200年の株式市場のチャートをご覧になってみてください。

普通株式、もっと言えば、稀に見る優良株で構成された分散型ポートフォリオを上回るものはありません。

凹んだり、調整が入ったり、次に何が起こるかハラハラするような弱気市場も、後から振り返ると全て買いのチャンスだったということがあります。 

つまり長期投資家は、非常にシンプルに投資を行うことができるのです。

必要なのは、適切な資産配分、投資コストの最小化、ポートフォリオの税金面の管理だけです。

あとは年に一度、ポートフォリオの資産配分をリバランスするだけです。

それ以外の時間は、ゴルフや旅行、釣りなど、余暇を自由に楽しんでください。

(現在、このポートフォリオを間もなく日本でもご紹介するための準備を進めています)

しかし、それは長期的な投資家向けです。

読者の中には短期的なトレーダーもいらっしゃいますね。(長期投資と短期トレードは、競合するものではなく、両立ももちろん可能です。)

短期トレードでは、個々の企業の見通しに注目することが大切です。

確かに、企業の業績は景気の良し悪しに左右されることが多く、株価は市場の短期的なトレンドに左右されることが多いです。

しかし繰り返しになりますが、これらを事前に知ることはできません。

ではトレーダーはどのようにしてリスクを管理するのでしょうか?

  1. 高品質な銘柄に集中しましょう。これらの企業は値上がりの可能性を十分に秘めており、調整市場や弱気市場でも最もよく持ちこたえることができます。ファンダメンタルズが最も脆弱な企業のパフォーマンスは、最悪となります。 
  2. 様々な国、産業、業種に分散させましょう。すべての国の株式市場が同時期に同じ方向に動くわけではありません。また、ヘルスケア、防衛、食品、公益事業など、概して不景気に強い業種もあります。 
  3. 各ポジションにトレーリングストップ(売却ルール)を設定しましょう。保有銘柄がいつピークを迎えるかはわかりません。しかし、トレーリングストップは、良い時には利益を、悪い時には元本を守ってくれます。そして、アップサイドの可能性を無限にし、ダウンサイドのリスクを最小限に抑えます。

これらのガイドラインに従えば、あなたは他の大多数(95%)の投資家の先を行くことができるでしょう。

さて繰り返しますが、未来とは、推測が不可能なものです。

投資家の中には、この点を認めた上で、「だから、市場で何が起こるかを推測する必要があるのですね」という人もいます。

いいえ、その必要はありません。むしろ推測なんてするべきではないのです。私が申しあげたいのは、そこです。

リスクを賢く管理する主要目的のひとつは、可能な限り推測による要素を排除することです。

どうすれば良いかって?市場にはいつも不確実性が付きまといます。それを受け入れられるだけの、実績のある資産管理の原則を用いることです。

例えば、今日お話ししたようなことです。

良い投資を。

アレックス

Alexander Green(アレクサンダー・グリーン)

Oxford Club チーフ・インベストメント・ストラテジスト。金融・投資関係の4冊のベストセラーの著者で、40年のキャリアがある。米国で金融・投資のニュースレターであるOxfordキャピタル・レターを20年以上執筆しており、ハルバート・ファイナンシャル・ダイジェスト社はこのニュースレターをここ10年以上もの間、最もパフォーマンスの高い投資ニュースレター・ベストテンに選出している。 アレックスの記事一覧 ≫

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