配当金が利益よりも多い?キャッシュ・フローを知れば謎は解けます

所要時間: 4分
この記事のポイント
- 会計上の数字と、会社の実態を示すキャッシュ・フローには大きな違いがある
- 純利益しか考慮しない投資家ではなく、キャッシュ・フローを見る投資家になる
- 配当金の安全性を分析するには、正しい数値の読み方を知り、正しい判断基準を持つ
「A社の株式を見ているのですが、その会社は利益よりも多くの配当金を配っています。配当は、会社が得た利益の一部を株主に配分するものですよね?ということは、これはおかしいと思うのですが、この会社は、どうやって配当金をまかなっているのですか?」
実は、この質問は、私のところに一番多くくる質問です。確かに、不思議な話でしょう。教科書的な考えでは「配当金とは、会社が得た利益の一部を株主に還元するもの」です。ということは、あくまでも、配当金の原資は「利益」になります。
ですが、私が解説する配当銘柄の中には、このご質問のように、その配当金の原資である利益をよりも配当金を出している株が存在します。ということは、少なくとも、ここから考えられるのは「利益で補えない部分は、どこからか調達している」ということでしょう。では、その調達先は、いったい、どこなのでしょうか?
利益で補えない資金、どこからか調達?
その答えは「キャッシュ・フロー」です。これについては、私のコラムで頻繁に取り上げています。その中では、独自システムであるSafetyNet Proを使って会社の配当金の安全性を検証しています。では、ここから「なぜ、答えがキャッシュ・フローなのか?」についてご説明しましょう。
それには、まず会社が収益を上げることとキャッシュ・フローには「大きな違い」があることを知らなければなりません。まず、収益からご説明すると、収益とは、減価償却費や分割償還、株式報酬などの非現金項目も含まれます。聞き慣れない言葉が並んでいるかもしれませんが、気にせず、次の具体例をお聞きください。
キャッシュ・フローの「大きな違い」
例えば、会社の粗利益が1500万ドルと仮定しましょう。そのうち、500万ドルが経営費(販売、一般、管理など)だとすると、手元には1000万ドル残ることになります。さらにこの会社が、毎年200万ドルずつ減価償却があるあとしましょう。加えて、費用計上される機材を2年前に1000万ドル分を購入したとする。
この時点でややこしいかもしれません。でも、ここも気にせずお聞きください。重要なのは、ここからです!この場合、会社は「2年前」に機材購入として1000万ドルを支払っています。それが200万ドルずつ減価償却されている。
これはどういうことかと言うと、会社は会計基準などの都合で、機材購入で1000万ドルを支払ったからといっても、一気にそれを費用計上することができません。クルマが良い例でしょう。クルマは購入したら、購入した年だけでなく、その後、何年も乗るのが通常でしょう。
だから、会計上、そのように何年も使用するのものには、「減価償却」という制度が適応されます。例えば、このような流れで合計1000万ドルを費用計上していきます。(※あくまでも分かりやすく説明するための一例です)
- 1年目:200万ドル計上
- 2年目:200万ドル計上
- 3年目:200万ドル計上
- 4年目:200万ドル計上
- 5年目:200万ドル計上
ただし、ここでポイントがあります。それが、キャッシュ・フロー、つまり、現金の動きです。現金は、このように動いています。
- 1年目:1000万ドル支払い
- 2年目:支払いなし(でも、会計上は200万ドル計上)
- 3年目:支払いなし(でも、会計上は200万ドル計上)
- 4年目:支払いなし(でも、会計上は200万ドル計上)
- 5年目:支払いなし(でも、会計上は200万ドル計上)
つまり、2年目以降は現金を支払っていないのに、会計上は200万ドル計上していきます。具体的に言うと、2年目以降、仮に毎年1000万ドルの売上があったとすると、現金は支払っていないのに、「粗利800万ドル」と会計上では計算されます。
つまり、こういうことです。「会計上の数字と、キャッシュ・フローは別物」です。だから、私はよりその会社の実態が分かる「キャッシュ・フロー」を見て、銘柄を分析しているのです。
ちなみに、もしこの会社が従業員に対して300万ドル分の自社株を提供していたとすると、300万ドル分の小切手を発行していないにも関わらず、ここでも同様に株式報酬は経費とみなされ、純利益から差し引かれます。そして、結果として会社の利益は合計で500万ドルになります。

ここでとにかく重要なのは、「会計上の数字と、会社の実態を示すキャッシュ・フローには大きな違いがある」ということです。
だから、会社が株主に対して600万ドルの配当金を出すとなると、多くの人は、「500万ドルの利益しかないにも関わらず、600万ドルもの配当金を出すなんておかしい!これは来年下がる可能性がある…もしくは、持続性はないだろう…」と考えてしまうのでしょう。
とにかく注目「キャッシュ・フロー」
もう一度、言います。「会計上の数字と、会社の実態を示すキャッシュ・フローには大きな違いがある」。だから、私たちは「キャッシュ・フロー」を見なければなりません。
キャッシュ・フローを見れば、彼らの疑問とは、全く違う世界が見えてきます。キャッシュ・フローは、現金の収入と支出のみを測るものとも言えます。だから、会社のキャッシュ・フロー額を計算するためには、純利益に非現金項目(減価償却や株式報酬)を考慮する必要があります。
それをふまえると、500万ドルだった収益に、1000万ドルの現金が追加されることになる。このようなことから、配当金の安全性を分析するとき、私はキャッシュフローに注目するようにしています。
キャッシュ・フローを見る投資家と、見ない投資家の違い
もしかすると…純利益しか考慮しない投資家は、会社が株主に払う配当金を用意できないと判断することになるかもしれません。しかし、キャッシュ・フローを見ている投資家は、「600万ドルの配当金を払いながらも1000万ドルの現金収入がある」ことを理解しているでしょう。
しかも、これをもとに配当性向を計算すると「60%」であり、非常に合理的な数値となります。一方、収益を使って配当性向を計算方法(多くの投資が使う計算方法)ではその数値は「120%」となり、異常に見えます。
このように、収益と比較して、キャッシュフローが報告されることは一般的ではないのですが、配当金の安全性を分析するうえで、これは非常に重要な判断基準になるでしょう。
良い投資を!
マーク・リクテンフェルド
いかがでしたか?
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